トウモロコシサイレージを多給する酪農経営の収益性

要約

TDN含量の高いトウモロコシサイレージを自家生産し、多給(1日1頭当たり原物30kg以上)している酪農経営においては、飼料費の低減を通して、同規模階層平均値と比較し7.6~11.6%高い1頭当たり所得を確保している。

  • キーワード:酪農経営、自給飼料、トウモロコシサイレージ、所得
  • 担当:中央農業研究センター・飼養管理技術研究領域・畜産経営グループ
  • 代表連絡先:電話 0287-37-7224
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

自給粗飼料としてサイレージ利用されるトウモロコシは、他の飼料作物に比較しTDN(可消化養分総量)含量及び収量が高く、酪農経営におけるトウモロコシサイレージの多給は飼料費の低減を通した収益向上に有効と考えられる。しかし、都府県では、トウモロコシサイレージの生産量を十分に確保できないこと等を背景に、TDN含量が高いにも関わらずトウモロコシサイレージの給与水準は原物5kg/頭程度(平成28年度生産費調査、都府県平均)と高くはない。
そのため、九州のトウモロコシ二期作地帯において、トウモロコシサイレージを1日1頭当たり30kg(原物)以上給与している酪農経営の実態調査から、自給トウモロコシサイレージ多給型酪農経営の収益性を提示する。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシ二期作に取り組んでいる2事例のうち、飼料作面積20haのK農場は自ら収穫機械(フォーレージハーベスタ)を装備し、収穫調製を行なっており、飼料作面積40haで経産牛157頭を飼養するY農場ではコントラクターに収穫調製を委託している。乳量・乳脂肪分はそれぞれK:9,922kg・3.97%、Y:9,759kg・3.90%であり、都府県平均の8,760kg・3.81%よりも高い乳量水準を確保している(表1)。
  • 搾乳牛向け給与メニューにおいて、K農場は1日1頭当たり原物36kgのトウモロコシサイレージを給与しており、これ以外の粗飼料類を給与していない。Y農場についても、 購入乾草を原物5kg給与しているものの、トウモロコシサイレージの給与量は原物30kgと高い(表1)。このように高栄養な自給トウモロコシサイレージを多給することで、濃厚飼料及び購入粗飼料の節約を図っている。
  • 調査事例のトウモロコシサイレージの1期・2期作の平均生産費は、不耕起栽培の導入やコントラクターの利用による効率化から、都府県の生産費よりも低く、また、粗飼料であるイタリアンサイレージの生産費(生産費調査都府県平均値)やチモシー乾草の流通価格(聞き取り調査値)よりも低い(図1)。
  • トウモロコシサイレージの低コストでの自家生産・多給と乳量の確保により、乳飼比は生産費調査の同規模階層平均値より低く、1頭当たり所得も7.6%~11.6%高い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 都府県における酪農経営の自給飼料生産の方向を検討する上での基礎データとなり得る。
  • 本事例は、いずれも畑地でのトウモロコシの生産事例であり、水田地帯におけるトウモロコシの栽培においては排水性等の土地条件に留意する必要がある。また、九州の不耕起栽培によるトウモロコシ二期作の実施におけるデータである。

具体的データ

表1 経営の概要,図1 トウモロコシサイレージの生産費(円/TDN/kg),図2 一頭当たり所得と乳飼比の比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:森岡昌子、西村和志、恒川磯雄
  • 発表論文等:森岡ら(2020)農業経済研究、92(1):22-27