波長選択型近赤外分光法によるフェストロリウム抗酸化物質含量推定の精度向上
要約
近赤外分光法による、フェストロリウムの総ポリフェノール、α-トコフェロール、β-カロテン、ルテイン含量の測定は、波長選択型による部分的最小二乗回帰(PLSR)法を用いることで、全波長を用いる通常のPLSR法よりも検量線の精度が改善される。
- キーワード:近赤外分光法、抗酸化物質、総ポリフェノール、部分的最小二乗回帰法
- 担当:中央農業研究センター・飼養管理技術研究領域・飼料調製グループ
- 代表連絡先:電話 0287-37-7807
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近赤外分光法は簡易迅速な化学分析の推定法であるが、定量分析の検出限界は0.1~0.2%とされており、乳牛の生産能力および健康状態の改善に有益な抗酸化物質の検量線を通常法で作成した精度では育種利用は困難である。全波長を用いる部分的最小二乗回帰(PLSR)法(通常法)を用いた検量線作成と比較して、対象成分の推定に寄与していない波長情報を除去もしくは有益な波長を選択する波長選択型PLSR法を適用することで、検量線の精度改善が期待できる。本研究では、波長選択型PLSR法として、不要な波長を段階的に除去するISE-PLSR法および遺伝的アルゴリズムを応用したGA-PLSR法を用いて、フェストロリウムの真空凍結乾燥物の総ポリフェノール、α-トコフェロール、β-カロテン、ルテイン含量の精度をR2cv値とRPD値を元に、通常法のPLSR法と比較する。
成果の内容・特徴
- 抗酸化物質の含有率平均値は、総ポリフェノールで1.903%、α-トコフェロールで0.018%、β-カロテンで0.035%、ルテインで0.019%である(表1)。
- 総ポリフェノール含量のRPD値は3手法とも >2.43であり、Kovalenko et al. (2006) による判定では、いずれの手法も育種や飼料設計に活用できる精度で推定可能であるが、ISE-PLSR法とGA-PLSR法の方が従来型PLSR法よりも優れている(表2)。
- α-トコフェロール含量のRPD値は、PLSR法とISE-PLSR法では1.16~1.40であるが、GA-PLSR法では1.41~1.70であり、大まかな簡易評価が可能である(表2)。
- β-カロテン含量のRPD値は、3手法とも1.41~1.70であり、大まかな簡易評価が可能である(表2)。
- ルテインのRPD値は、PLSR法とGA-PLSR法では1.16~1.40であるが、ISE-PLSR法では1.41~1.70であり、大まかな簡易評価が可能である(表2)。
- いずれの成分も従来型PLSR法よりも波長選択型PLSR法で作成した検量線の方が精度は高い。
成果の活用面・留意点
- 近赤外分光分析装置はModel 6500(FOSS NIRSystems社)を用いる。ソフトウェアはMATLAB(Mathorks社)とPLS-Toolbox(Eigenvector Research社)を用いる。
- 総ポリフェノール含量はフェストロリウムの抗酸化物質の簡易評価に利用できる精度であるが、育種選抜への適用は今後の実証が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2016~2019年度
- 研究担当者:江口研太郎、木村俊之、川村健介(国際農研)、内山和宏
- 発表論文等:江口ら(2019)システム農学35:43-52