かい廃農地を里山に残さないことがイノシシの生息環境を減らす対策になる

要約

イノシシは春期に竹林、針葉樹の林床を餌場、休息地、移動経路として選好するが、これらの環境は過去に山中に作られた農地のかい廃地である。かい廃時に表土や植物の管理をすることによって、イノシシの生息地を減らすことができ、被害対策の一手となる。

  • キーワード:イノシシ、獣害対策、生息環境管理
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・鳥獣害グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イノシシは、本州以南で年間50億円規模の農作物被害を発生させ、特に中山間地域において生産物の食害、農地や施設の損壊、敷地の汚損、集落での遭遇、交通事故など多方面に脅威を与えている。本種などの野生動物の農村環境における生息数や定着、分布、獣害の発生には、農地開墾や林業のような、過去と現在の人による土地利用圧力の変化が影響する。鳥獣害の発生や激化の理解には、動物と人の両面からの視点が必要であるが、イノシシにおいて科学的な事実認識に基づく議論は不十分である。
そこで、本研究ではGPS発信器を装着したイノシシの追跡結果を用い、イノシシの生息地選択と人の土地利用圧力、特に農地利用の時代的変化との関係を検討する。ここから、過去、現在、および今後も発生するかい廃農地などの管理について、鳥獣害対策としての試案を提示する。

成果の内容・特徴

  • 島根県大田市において、2005年4月から5月に雌イノシシ2頭へGPS発信器を装着し、1時間間隔で測位した結果から、行動圏、生息地の利用状況を示す(図1)。
  • イノシシの利用地点を現在の土地利用区分、土地利用の変化、特に農地のかい廃経緯に重ねて描画したところ(図1)、イノシシは行動圏内の土地利用において、竹林を餌場および休息地として選好する(表1)。
  • 過去、20年以内に農地から転換された若齢針葉樹林は、休息地、移動経路として選好され、かい廃水田はヌタ場として利用されるだけでなく、乾地化しても利用価値が高い。
  • 生息環境管理として、竹林、かい廃農地、耕作放棄地を優先的に手入れすることで、イノシシが選択に利用する生息地の資源的価値を下げることができる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 野生鳥獣の農業被害対策としては、被害防護をしっかり行うことが大前提である。
  • すでに放置された農地の管理より、今後発生する耕作放棄地を管理し、生息環境として価値を下げることは現実的かつ有効である。
  • 果樹園・茶園や牧草地など大規模に放任、放棄される可能性の高い農地の管理については、さらに土地改良、経済性評価、農業政策などとの分野横断的な技術開発を要する。
  • 獣害対策としての環境管理については、本結果のイノシシに限らず適用範囲を広く考えて対策を案出、実施する。

具体的データ

図1 調査地の土地利用区分およびメス成獣イノシシ2頭の行動圏と生息地利用,表1 メス成獣イノシシ2頭における活動、非活動別の生息地利用,表2 獣害対策としての環境管理試案

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2003~2018年度
  • 研究担当者:竹内正彦、斉藤昌幸(山形大)、上田弘則、仲谷淳
  • 発表論文等:
    • 竹内、斎藤(2018)農業農村工学会誌、86:385-389
    • 竹内(2018)日本農学アカデミー会報、29:17-27