ニホンジカは非積雪期は施肥される牧草地、積雪期は傾斜の大きい牧草地に多く侵入する
要約
中山間地域にある牧草地では、時期によってニホンジカが多く侵入する牧草地の特徴が異なる。ニホンジカは非積雪期に施肥が行われる牧草地に多く侵入する一方で、積雪期には傾斜の大きい牧草地に多く侵入する。
- キーワード:ニホンジカ、牧草地、中山間地域、被害対策
- 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・鳥獣害グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8481
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ニホンジカ(以下、シカ)による農業被害のうち牧草被害は最も大きく、中山間地域等に存在する多くの牧草地でシカによる侵入と加害が確認されている。被害対策手法として侵入防止柵の設置や捕獲が挙げられるが、多くの農家にとって、保有する全ての牧草地で対策を実施するのはコスト等の面から現実的ではない。限られたコストの中で最大限の被害抑制効果を得るためには、いつ・どのような牧草地にシカが多く侵入するかといった時空間的な要因に関する情報を把握して、対策手法を講じる必要があるが、これまで断片的にしか調べられてこなかった。そこで、牧草地で効果的な被害対策を実施するために、シカの牧草地侵入に影響する時空間的要因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- シカは主に夜間牧草地に侵入する傾向があるため、調査方法は夜間に車からスポットライトを照射し、牧草地(牧区)に滞在する各シカ個体数をカウントする方法が適している(図1、スポットライト・カウント法)。2012-2015年に群馬県の中山間地域に位置する牧場内32か所の牧区で本手法による調査を実施し、126日分のデータを得ている。なお、本牧場は12-3月に積雪し、積雪深は10-30cmである。
- 調査結果は、非積雪期に牧草地へのシカ侵入を増やす要因として「施肥が行われること」が、積雪期に侵入を増やす要因として「傾斜度の大きさ」がそれぞれ影響していることを示している(表1、いずれもP<0.01)。一方、非積雪期におけるシカ侵入は牛放牧が行われる牧草地で少なくなる(表1、P<0.01)。以上の結果から、非積雪期は採草期でもあることから、侵入防止柵の導入優先度は施肥が行われる牧草地で高い(図2)。非積雪期の施肥が行われる牧草地、積雪期の傾斜が大きい牧草地での捕獲は効果的である可能性が高い(図2)。また、上記牧草地のうち捕獲困難地は、柵の設置優先度が高い。
成果の活用面・留意点
- シカによる牧草被害が発生している中山間地域の牧草地における被害防止対策に活用できる。
- 牧草地に牛がいればシカの侵入を防げるということを示すものではない。
- 平野部など異なる条件下にある牧草地では傾向が異なる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2017年度
- 研究担当者:秦彩夏、竹内正彦、光永貴之、塚田英晴(麻布大)、鷲田茜(麻布大)、高田まゆら(東京大)、須山哲男(神津牧場)
- 発表論文等:Hata A. et al. (2019) Crop Prot. 119:185-190