切り花染色剤を利用したイネいもち病の病斑部の検出技術

要約

いもち病に罹病したイネを切り花染色剤で染色すると、葉や穂の病斑の形状が着色の有無により確実かつ容易に検出される。染色処理サンプルは乾燥による退色が少ないことから穂の部位別の病斑部の観察を時間的制約なく行え、画像解析にも利用できる。

  • キーワード:イネ、イネいもち病、病斑、画像解析、育種
  • 担当:中央農業研究センター・病害研究領域・抵抗性利用グループ
  • 代表連絡先:電話 050-3533-4624
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネの主要な病害の一つであるイネいもち病の抵抗性程度は、罹病植物組織上に形成される病斑の形状、数などにより推定される。それ故、病斑は抵抗性品種育成における特性評価の際、抵抗性遺伝子の判別に不可欠な情報である。しかしながら、自然条件下(=圃場)における病気のダメージ部位(=病斑部)を短時間で正確に把握することは難しい。病斑部を乾燥標本にして用いることはあるが、採取組織の萎れや変色により病斑特有の微妙な色合いは失われ、病斑部の判断が困難となり解析できない。そこで、イネいもち病の主要な症状である「葉いもち」と、評価が難しく抵抗性育種が遅れている「穂いもち」を対象に、病斑部をより確実に把握し、画像診断への利用を容易にする検出技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 病斑を含む葉や穂の組織を採取後、直ちに切り花染色剤に吸水させ染色すると、健全な部位は着色する一方、病斑部位は着色されない。本染色処理により、イネ組織に形成された病斑の形状が明確化される(図1)。
  • 葉いもち、穂いもちサンプル共に着色の境界(健全組織と病斑の境界)までいもち病菌の菌糸が確認されることから、着色されない部位が病斑部である(図2)。
  • 染色処理サンプルは乾燥した場合1年後でも病斑の位置、形状、大きさの観察が可能であり、長期間の解析作業に耐えられる。切り花染色剤の着色を指標とした画像解析により、病斑部位を計測できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本検出技術は、イネいもち病抵抗性遺伝子源の評価、および抵抗性系統の選抜や特性評価に利用できる。
  • 染色時間は、採取時の植物の生育状態などにより調整する必要がある。特に、穂の黄熟期から完熟期は水分吸収自体が減るため染色され難い。このような他要因由来の染色から起きる判断ミスを回避するため、事前に染色パターンを把握しておくことが望ましい。
  • 染色時の光条件は明るい方がよく、暗い場合はライトなどで補光する。しかし、染色剤が退色するため強い直射日光は避ける。
  • 今回使用した切り花染色剤国内2製品(「フラワーパレット」(トリイ)および「ファンタジー」(パレス化学))には、染色性に差がない。
  • 他の植物の病斑解析や様々な植物の生理現象の検出への利用が期待される。

具体的データ

図1 切り花染色剤(赤色)を利用した病斑部の検出,図2 切り花染色剤で検出された病斑部におけるいもち病菌の菌糸の局在,図3 画像処理による病斑域の検出

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:林敬子、吉田朋史(愛知県農総試)、早野由里子
  • 発表論文等:Hayashi K. et al. (2019) Plant Methods 15:159