ゴマダラカミキリ雄は雌体表の性フェロモン組成を再現した合成混合物に交尾行動を示す

要約

ゴマダラカミキリ雌成虫の体表面に存在する接触性フェロモンは3つの化学物質群から構成される。接触性フェロモンを感知することにより引き起こされる雄成虫の交尾行動は、すべて化学合成された15成分の混合物によっても再現できる。

  • キーワード:ゴマダラカミキリ、難防除害虫、接触性フェロモン、果樹害虫
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・情報化学物質グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8939
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ゴマダラカミキリは、幼虫期に果樹類やヤナギ類の枝や幹の内部を食害し、深刻な被害をもたらす。樹の内部に食入する幼虫の防除は難しいため、交尾行動の妨害等による雌成虫の産卵抑制が有効な防除となる。これまでに、雄成虫が触角などで雌成虫の体表面に触れることにより交尾相手として認識し交尾すること、体表抽出物で交尾行動が誘導できること、雌成虫の体表には、炭化水素類8化合物・ケトン類4化合物・ラクトン類3化合物から構成される接触性フェロモンが存在することが知られる。化学物質群のうち、先行して合成に成功した炭化水素群とケトン群の混合物では低いレベルでしか交尾行動を引き起こさないため、近年合成に成功したラクトン類を加えて生物検定を行い、雄成虫の交尾行動を誘導するのに必要な成分を特定する。

成果の内容・特徴

  • 近年人工合成に成功したラクトン群には、天然物で同定されているゴマダラクトンA、B、C、および非天然物のゴマダラクトンCの立体異性体があり(図1)、これらゴマダラクトン類を合成炭化水素類および合成ケトン類と混合し、ガラスモデルに塗布して雄成虫に提示すると、雄成虫は触角や口器で表面を触る行動をとったのちモデルに交尾試行する行動が観察される(図2)。
  • 炭化水素類とケトン類の混合物(図3の「HC+KT」)では雄成虫の交尾行動をほとんど誘導しない。HC+KTにゴマダラクトンAもしくはBを混合すると交尾行動の誘導が向上するが、雌成虫体表の抽出物に比べるとやや弱い傾向にある(図3)。
  • HC+KTにゴマダラクトンCまたはゴマダラクトンCの異性体を混合すると、雌成虫抽出物と同等の交尾行動を引き起こし、HC+KTに4種のゴマダラクトンを混合すると同抽出物よりも活性が強くなる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 行動観察より、雄成虫は雌体表抽出物に対するのと同様に合成性フェロモンに対しても強く執着し、8時間以上抱え続けるといった行動がみられる。合成性フェロモンを塗布した担体に雄成虫を誘引することができれば、その高い定着性を利用し、効率的に殺虫剤・昆虫病原菌剤等に接触させることにより、高い殺虫効果が期待できる。
  • 特定の場所に誘引するためには、同種の揮発性の性フェロモン・誘引物質の探索と同定が必要である。
  • 非天然物であるゴマダラクトンCの立体異性体に高い活性が確認されるので、構造活性相関の検討により、ゴマダラクトン類をより簡便で安価に合成できる工程を模索することが可能である。

具体的データ

図1 ゴマダラクトン類の化学構造(A,B,CおよびCの立体異性体),図2 合成フェロモンを塗布したガラスモデルに交尾行動を示すゴマダラカミキリ雄成虫,図3 各化合物類を処理したガラスモデルに対し雄が交尾行動を示した割合HC+KT:合成炭化水素類(HC)と合成ケトン類(KT)の混合物

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:
    辻井直、安居拓恵、安田哲也、若村定男(京都先端大)、秋野順治(京都工繊大)、深谷緑(日大)、鈴木敏夫(新潟大)、星隆(新潟大)、萩原久大(新潟大)、小野裕嗣(高度解析セ)
  • 発表論文等:
    • Fujiwara-Tsujii N. et al. (2019) J. Chem. Ecol. 45:440-446
      https://doi.org/10.1007/s10886-019-01069-1
    • 鈴木ら(2019)「3-オキサビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を有する化合物の製造方法、前記化合物、前記化合物の中間体、ゴマダラカミキリの性刺激剤、およびゴマダラカミキリの防除剤」特開2017-95381(2017年6月1日)