天敵保護装置により低湿度環境下でもパック製剤から多数の天敵カブリダニを放出できる

要約

天敵保護装置(バンカーシート®)はカブリダニ類に好適な生息・増殖場所を与える資材であり、低湿度環境下でもパック製剤から多数の天敵を放出できる。本資材の活用により、施設栽培の野菜類で問題となるハダニ類やアザミウマ類等に対して安定的な天敵放飼ができる。

  • キーワード:バンカーシート、保湿資材、湿度、生物的防除、カブリダニ類、微小害虫
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・生物的防除グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8939
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ハダニ類やアザミウマ類、コナジラミ類は施設栽培の野菜類に大きな被害を与える重要害虫である。これらの微小害虫は薬剤抵抗性を発達させやすく、化学農薬による防除が難しいため、天敵であるカブリダニ類による生物的防除が普及しはじめている。しかし、カブリダニ類は環境変化のうち特に乾燥に弱く、70%RH以下の低湿度条件下では生存(特に卵期)・発育・産卵に影響が生じることが知られている。そのため、従来のカブリダニ製剤(パック製剤)は乾燥した栽培環境では放出数が少なくなり、効果が安定しないことが課題となっている。そこで、天敵保護効果と持続的な天敵放飼を可能とする天敵保護装置(バンカーシート®)を実用化し、イチゴやキュウリ等の施設野菜類において、本資材を利用した微小害虫防除技術を確立する。施設内の湿度環境がバンカーシートからの天敵放出数に及ぼす影響は十分に解明されていないため、本研究では室内試験を通じてこれを検証する。乾燥条件を含む3段階の湿度環境下(低湿度・中程度の湿度・高湿度)における天敵放出数をバンカーシートとパック製剤で比較し、異なる湿度環境におけるバンカーシートの利用性について検討する。

成果の内容・特徴

  • バンカーシートは耐水紙でできた封筒状の簡易シェルターで、中にカブリダニ類のパック製剤と保湿資材、産卵用資材を入れて作物に設置する(図1)。利用可能な天敵はミヤコカブリダニ(主に施設野菜類のハダニ類防除;以下、ミヤコ)とスワルスキーカブリダニ(主に施設野菜類のアザミウマ類・コナジラミ類防除;以下、スワル)の2種である。
  • 低湿度環境(平均34%RH)に設置したパック製剤内部の湿度は低いが(平均34%RH)、バンカーシート内部は保湿資材の働きで湿度が高くなる(平均83%RH)。中程度の湿度環境下(平均73%RH)でも同様の傾向がある(パック製剤内部:平均75%RH、バンカーシート内部:平均90%RH)。高湿度環境下(平均94%RH)では両者の間に大きな差異はない(パック製剤内部:平均90%RH、バンカーシート内部:平均94%RH)。
  • いずれの湿度環境下でもカブリダニ類の総放出数はバンカーシートの方が多い(図2~図4)。ただし、高湿度環境下におけるスワルの総放出数には違いがない(図4)。
  • バンカーシートでは保湿資材や産卵用資材の働きによってパック製剤よりも天敵の増殖が促され、様々な湿度環境下において放出数がより多くなったと考えられる。この特長は、湿度環境が異なる施設内において安定した天敵放飼を行う上で有効と考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究では試験期間中にバンカーシート内部の保湿資材を交換しているが、施設栽培では保湿資材の交換は行わない。そのため、極端に乾燥した施設内では保湿資材の持続効果が短くなり、カブリダニ類の放飼に影響が生じる可能性がある。
  • 本資材は耐水性が高く、薬剤散布や灌水からカブリダニ類を保護する効果もある。

具体的データ

図1 バンカーシート本体・パック製剤・保湿資材・産卵用資材,図2 低湿度下における放出数の比較,図3 中程度の湿度下における放出数の比較,図4 高湿度下における放出数の比較

その他

  • 予算区分:競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:下田武志、日本典秀、後藤千枝、平岡正(大協技研工業)、森光太郎(石原産業)、香川理威(石原産業)、吉澤仁志(群馬農技セ)、中野昭雄(徳島農林セ)、松比良邦彦(鹿児島農総セ)、柳田裕紹(福岡農林試)、下元満喜(高知農技セ)、安達鉄矢(高知農技セ)、中島哲男(石原バイオ)、関康洋(普及支援協会)
  • 発表論文等: