トウガラシ退緑ウイルスの媒介種はミナミキイロアザミウマである
要約
ピーマンやトマトなどに感染して葉や果実に被害を及ぼすトウガラシ退緑ウイルスは、ミナミキイロアザミウマが媒介する。保毒虫1頭の媒介率は10%未満と低いものの、ピーマン苗に株あたり10頭の接種では50%と高い発病率となる。
- キーワード:トウガラシ退緑ウイルス、ミナミキイロアザミウマ、ピーマン、媒介、保毒
- 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・生物的防除グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8939
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
アザミウマ類は野菜・花き類の重要害虫であり、殺虫剤抵抗性が発達していることから多くの産地で深刻な被害をもたらしている。トウガラシ退緑ウイルスcapsicum chlorosis virus(CaCV)は2003年に高知県においてピーマンから国内初確認され、その後、茨城県や大分県でピーマン、栃木県ではトマトから本ウイルスが検出されている。CaCVに感染したピーマンでは、葉に退緑斑紋や輪紋症状(図1)、果実では奇形や軽度なモザイクが生じる。本ウイルスはアザミウマ類が媒介するオルソトスポウイルス属の1種であり、その媒介種として海外ではアザミウマの1種Cerathripoides claratrisが報告されているものの、国内におけるCaCVの媒介種は不明である。本ウイルスが今後ピーマン等の産地で深刻な被害を起こす可能性もあり、適切な防除を行うために媒介種の特定が強く求められている。
そこで、ピーマンに寄生するミカンキイロアザミウマFrankliniella occidentalis、ヒラズハナアザミウマF. intonsa、ネギアザミウマThrips tabaci、ミナミキイロアザミウマT. palmiの4種について、その媒介性や保毒の有無を明らかにし、CaCVの国内における媒介種を特定することにより、本ウイルス病の効果的な防除技術の開発につなげる。
成果の内容・特徴
- 孵化12時間以内の幼虫にCaCV感染ピーマン葉を24時間摂食させた後、ソラマメ催芽種子で羽化まで飼育した成虫を、検定植物であるペチュニアのリーフディスクに接種すると、ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ネギアザミウマではリーフディスクに病徴が全く生じないが、ミナミキイロアザミウマでは低率ながらCaCVの感染症状が現れる。リーフディスク試験の結果から算出される媒介率は、雄で8.7%、雌では3.9%である(表1)。
- 同様にウイルス感染ピーマン葉を幼虫期に摂食させた成虫のうち、ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、ネギアザミウマからはCaCVは検出されないが、ミナミキイロアザミウマでは60%の個体から検出される(表2)。
- ピーマン苗にミナミキイロアザミウマ保毒虫を株あたり10頭接種した場合、50%の株でCaCV感染による発病が確認される(表3)。
- 国内におけるCaCVの媒介種はミナミキイロアザミウマであり、本種の多発圃場では本ウイルス病がまん延する可能性がある。
成果の活用面・留意点
- ミナミキイロアザミウマおよびCaCVの発生が確認あるいは疑われる地域においては、本アザミウマ種の防除を徹底する。
- 植物の育苗期や生育初期はウイルス感染リスクが高いため、この時期の防除を特に重点的に行う。
具体的データ

その他