PCR-DGGEによるアーバスキュラー菌根菌分離菌株の簡便な品質管理法

要約

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)分離菌株の維持において数年毎に必要な経代培養の後に実施する純粋性の簡易検定に、PCR-DGGEが有用である。本手法により土壌から胞子を分離することなく増殖した菌株の分類ができ、目的株の1/9程度の異種菌株の混入が検出可能である。

  • キーワード:アーバスキュラー菌根菌、PCR-DGGE、遺伝資源、品質管理
  • 担当:中央農業研究センター・土壌肥料研究領域・土壌生物グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8877
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)はリン酸をはじめとする植物の養分吸収を促進する土壌微生物である。資源循環型農業への活用が期待されており、土壌改良資材に政令指定されていることから接種資材としても上市されている。農業生物資源ジーンバンクでは20年以上に渡って国内のAM菌株の分離・収集を行っているが、本菌の純粋培養法や長期保存法が確立されておらず、毎年ないし数年おきの株の更新(宿主との共培養による増殖)が必要である。AM菌分離菌株の維持や遺伝資源の配布には増殖栽培後の土壌が用いられているが、その品質管理(目的株が増殖していること、目的外の株が混入していないことの確認)は土壌から分離した胞子の形態観察をもとに行われてきた。遺伝資源の効率的な維持管理の観点からより簡便な品質管理手法の確立が望まれる。本研究ではPCR-DGGEがAM菌分離菌株の品質管理に有効であることを示す。

成果の内容・特徴

  • 分離菌株を増殖した土壌からFastDNA SPIN Kit fot Soil (MP-Biomedicals)を用いて抽出したDNAを鋳型とし、既報のAM菌特異的プライマー(GC-AMV4.5NF [1]-AMVR [2])を用いたPCR-DGGEを行うと、それぞれの分類群によって異なる位置にバンドが形成される(図1)。これにより従来、胞子の形態を元に実施していた分離菌株の品質管理を簡易に行うことが可能である。バンドパターンだけで判別が困難な場合はバンドを切り出して塩基配列を解析し、その配列に基づく系統解析を行うことで分類群を同定することができる。
    [1] Sato K et al., Grassl Sci. 51:179-181, 2005
    [2] Morimoto S et al, Soil Sci Plant Nutr. 64:545-553, 2018
  • この手法は胞子から抽出したDNAを鋳型にして実施することも可能である。土壌DNAを鋳型として得られるPCR-DGGEのパターンを胞子DNAを鋳型としたものと比較することにより、菌株の純粋性が検定できる。
  • 増殖したAM菌分離株に他のAM菌が混入していた場合、混入した菌株が目的株の1/9程度であっても本方法によって検出可能である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 長期保存方法が確立されていないために定期的な継代培養を必要とするAM菌遺伝資源の維持管理において、また販売されているAM菌資材の品質管理において、本方法は簡便な菌株同定手法・純粋性の検定手法として活用できる。
  • 多くの菌株ではメインバンド以外に複数のマイナーバンドを生ずるが、それらの塩基配列は系統樹上で近縁な関係を示す。近縁種でもマイナーバンドのパターンが異なる場合があり、初めて解析する分離株では胞子のパターンと土壌のパターンが一致することを確認することが望ましい。
  • Ambispora, Archaeospora, Paraglomusなど一部の菌群ではGC-AMV4.5NF - AMVRによるPCRの増幅効率が低い。その場合はGCクランプを含まないプライマーで予備増幅したものを鋳型とする2段階PCRを行う必要がある。

具体的データ

図1 AM菌分離菌株のPCR-DGGEパターン,図2 菌株の混入がPCR-DGGEパターンに与える影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:大友量、岡紀邦、森本晶
  • 発表論文等:Ohtomo R. et al. (2019) Microb. Environ. 34(4):356-362