秋季温暖化に適応した夏季播種技術を支援する牧草の晩限日計算プログラム

要約

播種晩限日計算プログラムは、北海道内において夏季播種による安定した牧草生産を支援する。気候区分ごとの越冬前の必要有効積算気温を参照し、気象庁アメダス気温データを用いて希望する地点・草種組み合わせでの播種晩限日を求めることができる。

  • キーワード:草地更新、夏季造成、気候区分、エクセル(表計算ソフト)、マメ科率
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

従来、播種当年の十分な生育量を確保するため、北海道での牧草は7月までの播種が推奨されてきた。しかし近年、越冬性に優れた品種が開発されたこともあり、秋季の温暖化にともなう生育促進に適応した夏季播種技術への期待が高まっている。夏季播種は、1番草を確保できる、雑草との競合を回避できる等優れた長所がある。しかし、越冬前の生育が不十分ならば定着が悪く、播種翌年以降の収量も少なくなるため、科学的根拠に基づく求める地点における草種組み合わせでの播種晩限日(播種を終えるべき日)の目安が求められている。そこで、計算プログラムを作成し、一連の手順をまとめた作業マニュアルとともに公開する。

成果の内容・特徴

  • 播種晩限日を求める手順は以下の通りである。
  • 1)「北海道内は統計的に5つの気候に区分できる」(2016年度研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/harc/2016/harc16_s02.html)より、周辺を総合的に判断し、求める地点の属する気候グループを決定する(図1)。
    2)北海道農業研究センター(気候区分グループB)、北見農業試験場(グループC)、根釧農業試験場(グループD)での播種期移動試験結果より求めた越冬前に必要な有効積算気温を確認し、プログラムに入力する(表1)。
    3)気象庁ホームページより求める地点付近の過去20年間のアメダス気温データをダウンロードして、播種晩限日計算プログラムに読み込む。
    4)以上よりプログラムは自動的に播種晩限日を計算する(図2)。過去20年すべての必要有効積算気温を確保する暦日が表示され、年ごとの暦日を確認できる。
  • 10年に1回生じる低温時を除き必要有効積算気温を確保する暦日を播種晩限日として推奨する。
  • 以上の手順をまとめたマニュアルを作成し、計算プログラムとともに農研機構webサイトにて配布する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:牧草播種を行う生産者、指導員、JA職員、牧草種苗関係者、事業担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道内全域全50万haのうち更新する予定のある草地全般。台風被害後の播き直し判断へ活用する可能性もある。
  • その他:
  • ・道内生産現場16ヶ所のヒアリングにより、計算結果の妥当性を確認している。
    ・北海道農政部生産振興局技術普及課の2017年版および2018年版「8月の営農技術対策」に引用され、普及センターを通じた営農指導に広く活用されている。http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/gijyutu/29/08.pdfおよびhttp://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/gijyutu/30/3008.pdf
    ・(一社)日本草地畜産種子協会・北海道自給飼料改善協議会が発行する「強害雑草防除マニュアル2016(北海道版)」に引用され、雑草対策の重要情報として、牧草種苗関係者に広く活用されている。 http://souchi.lin.gr.jp/skill/9.php

    具体的データ

    図1 北海道内の各気候グル;表1 各試験地(グループ)の必要有効積算気温;図2 播種晩限日推定のフローチャート;


    その他

    • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
    • 研究期間:2010~2017年度
    • 研究担当者:井上聡、奥村健治、高田寛之、松村哲夫、藤井弘毅(北海道立総合研究機構)、林拓(北海道立総合研究機構)、酒井治(北海道立総合研究機構)、出口健三郎(北海道立総合研究機構)
    • 発表論文等:
    • 1)奥村ら(2016)北農、83(2):14-19
      2)井上ら(2017)生物と気象、17:64-68
      3)農研機構(2017)「牧草播種晩限日計算プログラムおよび利用マニュアル」 http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/pamphlet/tech-pamph/078866.html (2017年12月21日)