土づくりにも役立つ家畜ふん堆肥を活用した肥料の製造と利用

要約

腐植酸含量を高めた鶏ふん堆肥、および牛ふん堆肥を主原料とし成分保証がなされた混合堆肥複合肥料の生産供給と栽培への適用効果をとりまとめた。堆肥生産者と肥料製造者とのマッチングや栽培への活用を促進し、化学肥料の使用量を大幅に削減できる。

  • キーワード:混合堆肥複合肥料、家畜ふん堆肥、腐植酸、栽培事例
  • 担当:九州沖縄農業研究センター・畑作研究領域・畑土壌管理グループ
  • 代表連絡先:電話 0986-24-4270
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

平成24年の肥料取締法施行規則等の改正により堆肥を原料とした「混合堆肥複合肥料」の生産が可能になるなど、我が国の農地における地力の低下や土壌の養分バランスの悪化が懸念される中で、国内の低廉な肥料資源であり、土づくりにも役立つ家畜ふん堆肥を活用した肥料開発が望まれている。
鶏ふんは潜在的に有機質の肥料としての価値が高いものの、一部で未熟で質の悪い製品が流通している実態にある。また、混合堆肥複合肥料は、(1)肥料成分と有機物を同時供給、(2)肥料成分の保証、(3)施肥作業性の高さ、(4)加熱乾燥による堆肥由来の雑草や病原菌のリスク低減、等の利点が挙げられ施肥管理の省力化が可能であるが、牛ふん堆肥を原料堆肥とする混合堆肥複合肥料の開発と市販化は品質を一定にコントロールしやすい豚ぷん堆肥や食品残さ堆肥を原料とする同肥料に比べて遅れている問題がある。
そこで、土づくりに有用な腐植酸含量を高めた高付加価値の鶏ふんの堆肥、および牛ふん堆肥を原料堆肥とする混合堆肥複合肥料について製造法をとりまとめ、栽培への適用効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 鶏舎より排出された鶏ふんに焼酎蒸留廃液を間欠的に散布し混合堆肥化した堆肥(以下、発酵腐植酸肥料:特開:2018-030777)あるいは鶏ふんに5%ないし10%の腐植酸質資材を加え堆肥発酵と同時に造粒した堆肥(以下:粒状腐植酸鶏ふん肥料)は、腐植酸含量が高く、単独でりん酸・加里肥料として代替できるほか、混合堆肥複合肥料の原料堆肥としても利用可能である。
  • りん酸・加里肥料の代替として発酵腐植酸肥料を施用したブロッコリー栽培では、肥料代同程度で同等の花蕾収量を得られる(図1a、表1)。また、後作のカンショへの施肥を省略することができる(図1b)。以上により二作を通じて慣行栽培(カンショ施肥有)に比べてりん酸肥料の施肥量をゼロに、加里肥料の施肥量を4.9kg/10a (85%削減)に大幅に削減できる(表1)。
  • 粒状腐植酸鶏ふん肥料を用いた冬どりキャベツの栽培においては、生産物の収量および品質を低下させることなく、ようりん、苦土石灰並びにりん酸・加里肥料の施肥が全量省略でき、化成肥料を用いる慣行栽培に比べて施肥コストを30%削減し、散布労力も同等である(図2)。
  • 牛ふん堆肥を原料堆肥とする混合堆肥複合肥料については、福岡県、岡山県、静岡県、神奈川県、新潟県などの肥料製造および現地試験データ等に基づいて、地域ごとに異なる作物を対象に表2に示す6銘柄の混合堆肥複合肥料を肥料登録するに至っている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:畜産農家、堆肥生産者、肥料メーカー、普及指導機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・表1で挙げた一部肥料については令和元年までに兵庫の工場で生産が開始されている。発酵腐植酸肥料は令和2年度に生産開始される。
  • その他:本成果情報の内容を含めて、農林水産省委託プロジェクト有機質資材コンソーシアム編(2020)「技術マニュアル 混合堆肥複合肥料の製造とその利用」として取りまとめた。マニュアルでは、生産者向け、肥料メーカー向け、堆肥の販路の多様化を目指す畜産農家向けの章をそれぞれ設け、肥料の生産事例、普通肥料登録申請方法および注意点について取りまとめるとともに、堆肥供給者と肥料メーカーとのマッチング事例や作物栽培事例についても整理した。

具体的データ

図1 発酵腐植酸肥料を用いたブロッコリー=カンショの輪作事例,表1 ブロッコリーへの施用資材量と肥料代(10a当たり),図2 水田転換畑における冬どりキャベツの栽培事例(三重県で実施),表2 農水委託プロジェクトで開発された牛ふん堆肥を原料とした混合堆肥複合肥料

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:
    荒川祐介、新美洋(九沖農研)、遠矢博昭(株式会社テクノマックス南日本)、原正之、堂本晶子、水谷嘉之、服部侑(三重県農業研究所)、伊藤均、中村雅人、西口茂、清水秀巳、安田幸良、下里緑、鈴木啓史(三重県中央農業改良普及センター)、西尾祐介、水田一枝、荒木雅登、持永亮、下田翼(福岡県農林業総合試験場)、薄一郎、奈木野光治(株式会社すすき牧場)、森次真一(岡山県農林水産総合センター農業研究所)、水木剛(岡山県農林水産総合センター畜産研究所)、荻野隆(三興株式会社)、中村明弘、福島務、渥美和彦(静岡県農林技術研究所)、竹本稔、上山紀代美(神奈川県農業技術センター)、浅野智孝、松岡英紀(朝日工業株式会社)、小柳渉、長谷川昌伸(新潟農総研畜産研)
  • 発表論文等: