調理加工は大豆食品の脂質代謝改善作用を変化させる
要約
食物繊維が豊富な煎り大豆は糞便中への脂質排出を促進する一方、大豆タンパク質が多い豆乳や生豆腐、凍り豆腐は脂質合成を抑制し、凝固タンパク質を含む豆腐類はコレステロール代謝物を排出させやすい。調理加工は大豆食品の脂質代謝改善作用に影響する。
- キーワード:大豆食品、調理加工、脂質代謝、栄養組成
- 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・栄養健康機能ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7991
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
わが国では、さまざまな大豆加工食品が生産されている。調理加工方法により食品の栄養成分組成が変化したり、食品成分の変性が起こったりすることにより、同一原料由来であっても異なる食品間で機能性に違いが生じると考えられる。いわゆる機能性食品ではない普通の加工食品であっても、その食品に特徴的な機能性を明らかにすることができれば、各個人の代謝傾向や体質に合った食品を推奨するための指標を作成できる。また、機能性をより向上させるような調理加工方法の開発にも応用可能となる。
本研究では同じ原料から製造した4種類の大豆食品の栄養成分組成を分析し、栄養成分の変化が大豆食品の脂質代謝改善作用に及ぼす影響を実験動物レベルで解明する。
成果の内容・特徴
- 丸大豆(煎り大豆)から豆乳、生豆腐、凍り豆腐と製造工程が進むにつれ、乾燥させた食品に含まれるタンパク質および脂質量が煎り大豆<豆乳<生豆腐≒凍り豆腐の順となり、炭水化物と食物繊維量は逆の傾向となる(図1)。加工方法によって栄養成分の組成が変化することを示している。
- 乾燥重量300 g/kgの大豆食品を含む食餌を21日間摂取した雄ラットでは、煎り大豆食群の糞便中への総脂質排出量が有意に増加する(図2左)。食餌中の食物繊維が脂質の吸収を阻害し体外に排泄するためと考えられるが、セルロース添加により大豆食品間の総食物繊維量を等量になるよう調整したため、大豆由来の食物繊維はセルロースよりもこの作用が強いことを示唆している。
- 糞便中への胆汁酸排出量は、生豆腐食と凍り豆腐食群で有意に増加する(図2右)。豆腐に含まれる凝固変性タンパク質が消化されにくいレジスタントタンパク質となって胆汁酸を吸着し、生体への再吸収を阻害した結果と考えられる。
- 煎り大豆群と比べ、豆乳、生豆腐、凍り豆腐群では、肝臓での脂肪酸合成酵素活性、mRNA発現量レベルで緩やかな低下傾向を示す(表1)。これらの食品は比較的大豆タンパク質が豊富であり、この結果は、大豆タンパク質は肝臓での脂質合成を抑制するとの既報と一致する。
成果の活用面・留意点
- 機能性を謳った食品は消費者からの関心が高いが、日常の食生活では安価かつ安定的に入手でき、食経験や安全性の高い食品が好まれる。食品関連企業側もその需要に応えたいとの要望がある。食品の機能性は従来の食品成分単体だけでなく、今後は食品そのものの機能性も注視されるべきである。
- 食品そのものの機能性の解明に関する研究は国内でも世界でも進んでいない。本研究の評価法もまだ試行段階であるため、さらに改良が必要である。
- 本研究では大豆食品の脂質代謝改善作用に注目したが、食品間の違いは必ずしも有意ではなかった。本研究の成果は健常人が日常の食生活で継続的に摂取するときの参考にはなるが、動物試験から得たデータであることを留意していただきたい。また、ここで扱った食品は一般的な大豆食品であり、サプリメントや機能性食品のような効果が期待できる食品ではない点にも注意が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(非破壊)、その他外部資金(助成金、24補正「機能性食品プロ」)
- 研究期間:2012~2016年度
- 研究担当者:高橋陽子、石黒貴寛(旭松食品)、石川(高野)祐子、渡辺純、八巻幸二
- 発表論文等:Takahashi Y. et al. (2017) Food Sci. Tech. Res. 23(1):163-168