乳酸菌H61株によるマウス聴力老化の抑制
要約
マウスにおける老化抑制効果やヒトの肌状態改善効果が報告されている乳酸菌Lactococcus lactis H61(乳酸菌H61株)の死菌粉末を、マウスの飼料に0.05 %添加して半年間食餌摂取させると、加齢に伴う聴覚神経細胞死を抑制し、聴力の低下を抑制する。
- キーワード:加齢性難聴、マウス、老化、乳酸菌H61株
- 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・食品機能評価ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7991
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
すでに超高齢社会に突入している我が国であるが、今後も高齢者の割合は増加の一途をたどる見通しである。高齢期においても健康を維持することは、医療費削減においても、個人のQOL向上においても重要な要素である。美味しく、健康的で、入手しやすい食品を摂取することで、健康寿命の延伸が可能であれば、多くの国民にとってプラスとなることから、抗老化能の高い食品を適切に評価する技術の開発と、その効果を有する食品素材の発掘を目指したものである。
我々はこれまで、マウスの聴力老化(加齢性難聴)を指標にして、食品素材の抗老化能を評価する試験系を構築してきた。この試験系を利用し、老化促進マウスにおける皮膚等の老化抑制効果やヒトの肌状態改善効果が明らかとなっている乳酸菌H61株について、加齢性難聴抑制効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 乳酸菌H61株の乾燥死菌粉末を0.05 %添加した飼料を与えたマウスは、図1に示すとおり、加齢に伴う聴力低下の進行が遅延される。
- 加齢に伴う聴力の低下は、聴覚神経細胞の細胞死に起因するが、乳酸菌H61株を含有する飼料を与えたマウスは、図2に示すとおり、加齢に伴う聴覚神経細胞死の割合が軽減される。
- 乳酸菌H61株の摂取による腸内細菌叢の変化と聴力老化抑制効果に相関がある。
- 乳酸菌H61株の摂取による血中の遊離脂肪酸濃度低減と聴力老化抑制効果に相関がある。
- 加齢性難聴は、ヒトを含めた動物全般に共通する老化現象であることから、乳酸菌H61株の摂取は、ヒトにおいても加齢性難聴を抑制する可能性が期待される。
- 乳酸菌H61株の摂取は、聴覚神経の細胞死を抑制していることから、脳神経の細胞死を抑制する可能性もあり、脳老化の予防効果も期待される。
成果の活用面・留意点
- 加齢性難聴はヒトとマウスで共通する老化現象であり、ヒトにおいても同様の効果が期待されるが、ヒトにおける検証データを取得するためには、現状では10年程度の歳月が必要であり、実証が困難である。
- 聴覚神経細胞は、一度失われると再生しないと考えられており、すでに加齢性難聴が進行した状態を、乳酸菌H61株の摂取により回復させることは期待されない。
- 加齢性難聴を予防するためには、聴覚神経細胞を死なせないことが重要であり、若い状態からの継続的な予防が重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2014~2016年度
- 研究担当者:大池秀明、青木綾子、木元広実、山岸直子、冨田理、関山恭代、若木学、桜井睦、一法師克成、鈴木チセ、小堀真珠子
- 発表論文等:Oike H. et al. (2016) Sci. Rep. 6:23556. doi:10.1038/srep23556