エリアンサス茎葉のアルカリ前処理・糖化後固形残渣から効率的にリグニンを回収

要約

資源作物エリアンサス茎葉を水酸化カルシウム前処理し、中和・酵素糖化を行った後の固形残渣は、常温アルカリ抽出可能なリグニンを含む。本リグニンは、エリアンサス茎葉から直接アルカリ抽出されるリグニンと比較して、糖の混入が少なく純度が高い。

  • キーワード:リグニン、エリアンサス、水酸化カルシウム、糖化後固形残渣、アルカリ抽出
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・生物資源変換ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲わらや、収量性が高い多年性資源作物であるエリアンサスを原料として糖液を製造し、エタノール、有機酸等の有価物を発酵生産するためには、セルロースを単糖に変換する効率を上げることが重要である。それに加えて、副生する糖化後固形残渣に付加価値を与えれば、バイオマス変換系全体のコストを低減し得る。そのため、新たな工業原料として電気絶縁性樹脂、粘土とのハイブリッド素材、高機能活性炭などの新用途開発が進んでおり、残渣に多量に含まれるリグニンを簡便な方法で回収する。

成果の内容・特徴

  • 原料中の繊維質や易分解性糖質の流亡を抑え、かつ湿潤材料の処理が可能であるCaCCO法(Calcium Capturing by Carbonation, 徳安ら、2009年度研究成果情報)を用いてエリアンサス茎葉1,000 g(乾燥重量)を前処理・糖化すると、糖化液と共に乾物重量比30 %のリグニンを含む固形残渣580 g(乾燥重量)が発生する。これを100 mM (0.4 %) NaOH溶液で抽出することにより、常温・常圧下で速やかにリグニンが溶出し、抽出15分後に固形残渣中リグニンの50 %が溶出する。前処理を行わないエリアンサス茎葉粉砕物を抽出原料として用いた場合、リグニンの溶出量は少なく、かつ抽出に長時間を要する(図1)。
  • エリアンサス茎葉の前処理・糖化後固形残渣から回収したリグニンは、前処理・糖化を行わないエリアンサス茎葉粉砕物から直接回収したリグニンと比較し、グルコース、キシロースの混入が少なく純度が高い(表1)。
  • 本固形残渣から回収したリグニンの芳香環構造は、G型(グアイアシル型)核44 %、S型(シリンギル型)核36 %と共に、草本リグニンに特徴的なH型(4-ヒドロキシベンズアルデヒド型)核を10 %程度含む。また、重量平均分子量は10,400、数平均分子量は1,330となる。

成果の活用面・留意点

  • リグニンとして市場に流通している製品(リグノスルホン酸)は製紙工程の副生物である。リグノスルホン酸は木材が原料であり、芳香環構造や酸化度の差など、草本系リグニンと化学的特性が異なる。特に、本成果で得たリグニンのH型核は芳香環がメトキシ化されておらず、G型、S型と異なった化学反応性が期待できる。エリアンサス由来リグニンの特性を活かした用途開発が重要となる。
  • エリアンサスを25 ha栽培した場合、移植3年目の収量を5 t/10 aと仮定すると1,250 tのバイオマスが得られる(我有ら、2008年度研究成果情報)。全量をCaCCO法で前処理し、本リグニン回収方法を適用した場合、99 tのリグニンを回収できる(全て乾燥物重量換算)。
  • 本法で回収したリグニン(乾燥重量10 g相当)は、用途の検討を希望する外部研究機関に提供可能である。

具体的データ

図1 エリアンサス茎葉の前処理・糖化後固形残渣、及び無処理エリアンサス茎葉粉砕物からのリグニン抽出効率?表1 前処理・糖化後固形残渣由来リグニン及び無処理(粉末)由来リグニンの成分組成

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(再エネ)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:山岸賢治、趙鋭、池正和、関笛、我有満、徳安健
  • 発表論文等:山岸ら(2017)農研機構報告食品部門、1:79-85