室間変動を考慮した味覚センサ装置によるリーフ緑茶の味強度評価の新尺度

要約

味覚センサ装置によるリーフ緑茶の渋味及びうま味強度測定法の室間共同試験により算出された測定値の室間のばらつきを考慮すると、味の強さの尺度の一目盛りは標準物質の40 %濃度差に対応するセンサ出力になる。

  • キーワード:リーフ緑茶、味覚センサ装置、渋味、うま味、室間共同試験
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・分析基盤ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

味覚センサ装置は基本五味に加え渋味にそれぞれ特化したプローブを備えた機器で、味物質と検出部の脂質膜が相互作用して生じる膜電位変化をセンサ出力として記録する。味の強さの評価には、センサ出力値を味推定値に換算して用いる。
分析・測定手法の実用化に際しては、複数の試験室が参画した室間共同試験により測定値のばらつきの度合いを確認しておく必要があるが、味覚センサ装置による味強度測定法に関しては今までに行われていない。そこで本研究では、リーフ緑茶の味強度測定法に関して、味覚センサ装置を保有する複数の試験室による室間共同試験を行い、測定値のばらつきを明らかにし、その結果に基づいて従来用いられてきた味推定値の目盛りが妥当なものであるかを評価する。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、味覚センサ装置を用いたリーフ緑茶の渋味及びうま味強度測定法について9試験室の参画による室間共同試験(普通煎茶3、深蒸し煎茶1、玉露1の5試料を各機関が2回併行測定)を実施し得られたデータに基づくものである。ここで言うリーフ緑茶には、荒茶及び仕上げ茶が含まれる。
  • 設備上の制約により手順書通りの操作が不可能であった1室を除き、8室分のデータについて解析を行って室間再現許容差を算出した。室間再現許容差(2.8SR)は、異なる測定機関で得られる1回測定の測定値間に統計的に危険率5 %で認められる有意差である。
  • 渋味強度測定値では、室間再現許容差の最大値は従来の渋味推定値の一目盛りを超える(図1)。うま味強度測定値では、室間再現許容差の最大値でも従来のうま味推定値の一目盛りを超えないが、その大きさは一目盛りの80 %に達する(図1)。
  • 味覚センサ装置によるリーフ緑茶の渋味及びうま味強度測定値について、室間の測定誤差を考慮し、味推定値の尺度は標準物質の40 %濃度差に対応するセンサ出力を一目盛りとするべきである。
  • 室間の測定誤差を考慮した新しい目盛りを使用することで、異なる測定機関・測定日で同一のリーフ緑茶試料を分析した場合の味強度の評価に高い再現性を得ることができる。この新しい目盛りは、従来使用されてきた尺度の二目盛り分に相当する。目盛りの幅を変更する場合でも、測定に使用する標準物質溶液の濃度を始め操作手順には変更を加える必要はない。参考として、リーフ緑茶試料の測定データに新旧の目盛りを適用した概念図を示す(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 味覚センサ装置を用いたリーフ緑茶の渋味及びうま味強度測定法については、2006年度研究成果情報及び2008年度普及成果情報を参照する。
  • 図2は、文献2及び3で供試した幅広い味強度を持つリーフ茶の測定値の中から、最大値及び最小値を含む代表的な試料の値を抜粋して示している。
  • 本成果は、リーフ緑茶の渋味及びうま味強度を測定する手法に関するものである。他の食品の味強度測定法に関しては、個別に室間共同試験を実施し、測定値のばらつきを確認する必要がある。

具体的データ

図1 室間共同試験で明らかになった測定値のばらつきと味推定値の目盛りとの比較?図2 新しい目盛りのリーフ緑茶の測定データへの適用概念図(文献2及び3のデータを改変)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:氏原ともみ、林宣之、陳栄剛((株)インテリジェントセンサーテクノロジー)、羽原正秋((株)インテリジェントセンサーテクノロジー)、池崎秀和((株)インテリジェントセンサーテクノロジー)
  • 発表論文等:
    1)氏原ら(2017)日食科工誌、64(2):74-80
    2)Hayashi N. et al. (2006) Biosci. Biotechnol. Biochem. 70(3):626-631
    3)Hayashi N. et al. (2008) J. Agic. Food Chem. 56(16):7384-7387