わかめ加工品の産地判別の指標となる微量元素
要約
わかめの産地判別技術開発のため、加工度の異なる原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめについて、加工工程の影響を受けにくい微量元素を選定する。3種の微量元素(Ba、AsおよびCd)が、鳴門産・三陸産・中国産・韓国産のわかめ加工品の産地判別の指標となりうる。
- キーワード:微量元素分析、加工工程、わかめ加工品、産地判別
- 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・信頼性評価ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7991
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
2008年から2016年にかけてわかめの産地偽装問題が発生し、科学的手法によるわかめの産地判別技術の開発が求められている。わかめの主な加工品は、原藻わかめ(原料)を湯通し後に塩蔵して製造される湯通し塩蔵わかめ(一次加工品)と、湯通し塩蔵わかめを洗浄・乾燥して製造される乾わかめ(二次加工品)である。これまでに、湯通し塩蔵わかめについては、安定同位体比分析および微量元素分析の併用により、産地判別の可能性を見出している。しかし、一般に微量元素は水溶性が高く、加工工程で流出・流入する可能性が高いことや、副原料である塩にも含まれることから、湯通し塩蔵わかめの産地判別モデルを他のわかめ加工品に適用することは困難と考えられる。そのため、本研究では、原藻わかめと乾わかめを加えた3種のわかめを対象とし、2011年と2012年に三陸、鳴門、中国(遼寧省の大連市付近)、韓国(南西部の全羅南道)で収穫・加工された試料について、水洗浄や塩蔵などの加工工程を経ても濃度変化が少ない微量元素を検討する。選抜した加工工程の影響を受けにくい微量元素を用い、鳴門産・三陸産・中国産・韓国産の原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめについて産地判別への可能性を検証する。
成果の内容・特徴
- 三陸、鳴門、中国および韓国で収集された素性の明確な原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめおよび乾わかめの12元素(Mg、P、Ca、V、 Mn、Fe、Zn、As、Rb、Sr、CdおよびBa)濃度について、加工塩の影響を取り除くため固形分の補正を行う。加工による変動率は、V、As、CdおよびBaで小さく、いずれの加工においても20 %以下である。
- 中国産の原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめにおけるBa濃度は、その他の地域(三陸産、鳴門産、韓国産)よりも有意に高い。原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめのBa濃度による線形判別分析の結果から、韓国産原藻わかめ1検体と韓国産塩蔵わかめ2検体が中国産と判定されるが、中国産とその他の地域で特徴的な分布が見られる(図1)。
- 三陸、鳴門、中国および韓国産の原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめについて、加工により変動しにくいV、As、CdおよびBa濃度による正準判別分析を行うと、変数増加法によってVが削除される。残りの3元素(Ba、AsおよびCd)の濃度を用いると、各地域で特徴的な分布が見られる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 産地を代表する検体の数を増やして検証を重ねる必要はあるが、加工の影響を受けにくい微量元素を用いることで、原藻わかめ、湯通し塩蔵わかめ、乾わかめに共通した産地判別技術開発の可能性がある。
- 日本、中国および韓国のサンプル収集地域は主要産地であるため、それ以外の地域のわかめ加工品の産地判別を行うには別途検証する必要がある。
- 一部の微量元素濃度に年次変化が見られることから、引き続き年次変化の検証が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
- 研究期間:2011~2016年度
- 研究担当者: 鈴木彌生子、國分敦子(理研ビタミン)、絵面智宏(理研ビタミン)、阿部洋俊(理研ビタミン)、濱田真子(理研ビタミン)、加藤栄一(理研ビタミン)
- 発表論文等:
1)絵面ら(2015)食科工誌、62(10): 484-491
2)絵面ら(2016)食科工誌、63(9): 427-432
3)國分ら「わかめの生育海域を判別する方法」 特開2016-118515 (2016年6月30日)
4)國分ら「わかめの生育海域を判別する方法」 特開2016-118516 (2016年6月30日)