香辛料成分であるクルクミンのメタボリックシンドローム予防機構

要約

ターメリックなどに含まれるポリフェノールのクルクミンは、食餌性肥満モデルマウスの内臓脂肪組織における酸化ストレス、小胞体ストレス、炎症及び脂肪合成を抑制することが、遺伝子発現及び脂質の網羅解析などの新たな評価法により明らかになる。

  • キーワード:網羅解析、メタボリックシンドローム、クルクミン、内臓脂肪、リピドミクス
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・食品機能評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

超高齢社会である日本においては、国民の健康維持増進に役立つ機能性農林水産物や食生活の提案が求められている。そこで本研究では、網羅解析技術を組み合わせた新たな機能性評価手法の開発を行う。その端緒として、高い抗酸化能や炎症抑制作用などの多様な作用を有することが知られているクルクミンを対象に、遺伝子発現及び脂質の網羅解析等により、食餌性肥満モデルマウスのメタボリックシンドローム予防に関わる効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 高脂肪・高ショ糖・高コレステロール食である西洋型食をC57BL/6Jマウスに18週間摂取させると食餌性肥満となり、内臓脂肪蓄積、高血糖、脂質異常等のメタボリックシンドロームが誘導される。西洋型食に0.1%のクルクミンを添加しても、体重増加、内臓脂肪蓄積は抑制されないが、内臓脂肪組織の酸化ストレスマーカーが低下する。
  • 内臓脂肪の蓄積とそれに伴う炎症はメタボリックシンドロームの原因となる。脂肪組織の慢性炎症には酸化ストレスや小胞体ストレスが関わっている。内臓脂肪の一種である精巣上体脂肪組織の遺伝子発現の網羅解析により、クルクミンの作用が小胞体ストレス抑制作用を示すこと、弱い炎症抑制作用を介することが予想される(図1)。また、フラボノイドであるケルセチンと比較すると、発現変化が共通する遺伝子群は炎症抑制に関与する。
  • 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)‐質量分析法(MS/MS)を用いる脂質の網羅解析(リピドミクス)により、クルクミンは食餌性肥満モデルマウスの内臓脂肪組織のジアシルグリセロール等を減少させるなど、脂質のプロファイルを変化させることを明らかにする(図2)。
  • 遺伝子発現及び脂質の網羅解析の結果等から、クルクミンは内臓脂肪組織において、酸化ストレス及び小胞体ストレスを低下させ、弱い炎症抑制作用を介したメタボリックシンドロームの発症予防効果を示すと共に、脂肪合成を抑制することが予想される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子発現及び脂質の網羅解析により、メタボリックシンドローム予防に関わる食品成分の作用機序を評価することができる。
  • クルクミンは、ケルセチンとは異なり内臓脂肪組織の重量を低下させず、また発現を低下させる炎症抑制遺伝子の数も少ない。ヒトでの有効性については食生活も含めて慎重に評価する必要がある。

具体的データ

図1 遺伝子発現変化の比較から予想されるクルクミンの食餌性肥満モデルマウスの内臓脂肪組織への作用;図2 クルクミンが西洋型食による食餌性肥満モデルマウスの内臓脂肪組織の脂質に及ぼす作用内臓脂肪組織の脂質を網羅解析した後、主成分分析を行った;図3 食餌性肥満モデルマウスの内臓脂肪組織の遺伝子発現及び脂質の網羅解析により予想されるクルクミンの作用機序

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(26補正「革新的緊急展開」、助成金)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:小堀真珠子、大池秀明、和泉自泰(九州大)、馬場健史(九州大)、木村俊之
  • 発表論文等:Kobori M. et al. (2018) Sci Rep. 8(1):9081