味と香りのマッチングと唾液分泌の関係

要約

おいしさに関連する甘味およびうま味について、香りを付与することによる味と唾液分泌の関係の変化を解析する。香りを付与した甘味については、唾液分泌と嗜好性の相関関係を、言葉を介さない味と香りのマッチングの評価指標の1つとして利用できる。

  • キーワード:味、香り、唾液分泌、嗜好性、マッチング
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・感覚機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品のおいしさを調べる方法としては官能評価が主流であるが、パネル育成のコストなどの問題点がある。近年、言葉によらず快適さを評価する方法として心拍や血流などの生理指標を利用する試みが増えてきている。そこで、本研究は、官能評価の代替方法として、おいしさを評価する非侵襲的な生理指標に唾液が利用可能であるかを検証する。おいしさに関連する味刺激と味の強度および唾液分泌の関係を明らかにし、香りを付与することによる関係の変化を通して味と香りのマッチングの評価法の開発を図る。

成果の内容・特徴

  • 味刺激による唾液分泌と香り刺激による唾液分泌を弁別するために、甘味濃度と唾液分泌および嗜好性の関係を明らかにする。6種類の甘味料を用いて、官能評価法により評価した甘味度と唾液分泌量の相関をとる。図1に示す通り、唾液分泌と甘味度はやや相関するが、唾液分泌と嗜好性は相関しない。この結果は甘味刺激による唾液分泌が情動を介さない無条件反射であることを示す。
  • 香りによる唾液分泌は情動を介す条件反射であるため、味に香りを付与することによる情動変化を、唾液分泌と嗜好性の関係の変化から明らかにする。甘味にマッチする香りとしてアズキの香りを付与した甘味溶液を、甘味とマッチしない香りとしてマツタケの香りを付与した甘味溶液を用い、唾液分泌量と嗜好性の関係を調べる。
  • 後鼻腔経路を介した香りは、味と香りの相互作用を引き起こしやすい。そこで、甘味溶液を10秒間口に含んだのち嚥下することで香り成分を後鼻腔経路に提示し、唾液採取および味の強度と嗜好の評価を行う(図2)。
  • 甘味にマッチする香りを付与した甘味溶液は、嗜好性と唾液分泌が正の相関(r=0.648、p=0.0825)を持つ(表1)。一方、香りの付与による唾液分泌量の有意な変化は観察されない。
  • うま味では、香りの付与による唾液分泌と嗜好性の有意な相関は観察されない(表1)。また、香りの付与による唾液分泌量の有意な変化も観察されない。

成果の活用面・留意点

  • 香りを付与した甘味刺激による唾液分泌と嗜好性の相関は、唾液分泌が言葉を介さないおいしさ評価の指標の1つとして利用可能であることを示す。
  • 甘味とうま味では唾液分泌と嗜好性の関係が異なることから(表1)、味の種類ごとに固有の唾液分泌の仕組みが存在すると考えられる。よって、現在の実験条件で複合的な味を評価することは困難である。
  • 個々の味の感度や香りの好み、あるいは生理状態は個人差が大きい。おいしさをより正確に評価するには、被検者の数を増やす必要がある。また、唾液中に含まれる成分など、他の多数の生理指標を併用することも必要である。
  • 松茸の香については、経験しない香りととらえる被検者が少なからず存在する。味にマッチする香りの選抜については、時代による食経験の差を考慮する必要がある。

具体的データ

図1 唾液分泌、甘味強度、嗜好性の相関関係(n=405);図2 実験方法の概要;表1 香りを付与した味刺激による唾液分泌量と嗜好性の相関関係 (n=8)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(助成金)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:日下部裕子、河合崇行、和田有史
  • 発表論文等:日下部ら(2018)FFIジャーナル、223(1):44-52