メタボロミクス手法を用いた脂質関連成分群プロファイリングによる味噌品質解析

要約

味噌に含まれるアシルグリセロール類及び遊離脂肪酸類について、超臨界流体クロマトグラフ/質量分析計による分析を行う。統計的手法との組み合わせにより、味噌の種類及び品質、醸造法の違いと当該成分の含有量または比率の相関性が明らかになる。

  • キーワード:味噌、メタボロミクス、アシルグリセロール、遊離脂肪酸、超臨界流体クロマトグラフ/質量分析計
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・食品醸造微生物ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

味噌等の発酵食品醸造には技術者の長年にわたる経験と勘が必要であるが、和食文化に欠かせない発酵食品の多様性を維持するためには、工程管理の簡便化等に寄与する醸造技術の開発が必要である。味噌業界からは品質に関わる成分の解明とその情報を用いた品質評価法の開発が望まれている。近年、代謝物の総体を対象とするメタボロミクスが食品研究にも応用されるようになった。そこで、新たな研究戦略として味噌を対象としたメタボロミクスを立ち上げ、成分と品質の関係を解明し、成分情報から品質を定量化することを目指す。本研究ではオレオガスタス(脂味)の成分であるアシルグリセロール類(グリセロールに1~3分子の脂肪酸が結合した脂質)に着目し、脂質関連成分であるアシルグリセロール類の味噌における含有比率を解析し、味噌の品質と成分の相関を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 使用する味噌は、市販味噌14種類である。その内訳は、米味噌7種類、豆味噌2種類、麦味噌2種類、調合味噌3種類である。
  • アシルグリセロール及び遊離脂肪酸の抽出は、Bligh & Dyer法により行う。分析機器として、超臨界流体クロマトグラフ/質量分析計を用いる。まず、味噌抽出物に鹸化処理を施し、アシルグリセロールの構成脂肪酸を同定する。次に、検出した脂肪酸分子種の情報に基づき、考えうる全てのアシルグリセロール分子種の包括的解析を行う。
  • 超臨界流体クロマトグラフ/質量分析計の一例として、島津製作所のNexera UC/LCMS8040を用いる。また、同社のLab solutions ver 5.80により制御する。質量分析計では、エレクトロスプレーイオン化法により多重反応モニタリングを行い、質量を計測する。
  • 主成分分析の結果、図1に示すとおり、二次元プロット上で味噌の種類によって大きく3グループに分けられる。米味噌5種類+麦味噌1種類」(グループA)、「豆味噌2種類」(グループB)、「米味噌2種類+麦味噌1種類と調合味噌3種類」(グループC)のように、味噌の種類によりプロットされる領域が異なる。プロットの右方向に行くにつれて、分析対照群のうちトリアシルグリセロールの比率が高くなる。また、下方向に行くにつれて遊離脂肪酸の比率が高くなる。
  • 味噌の定量的官能評価データと成分量との統計的解析(OPLS)を行うと、アシルグリセロールまたは遊離脂肪酸の種類と官能評価の間に相関性が見られ、旨味及びこく味と相関が最も強い成分はモノオレイン酸グリセロールである(表1、黄背景のMG[O])。

成果の活用面・留意点

  • 今後、アシルグリセロール以外の成分群による同様の分析を行い、味噌の品質と相関する成分の解明をさらに深化する必要がある。
  • メタボロミクスを用いることにより、含有成分量やその比率の違いにより味噌の種類及び品質、製造法を予測する手法の開発が可能になることが期待される。

具体的データ

図1 14種類の味噌のアシルグリセロール分子種を指標とした主成分分析;表1 統計的解析(OPLS)より得られた味噌の各官能評価用語についての成分とVIP値

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(26補正「革新的緊急展開」)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:楠本憲一、小川高宏(阪大院工)、和泉自泰(九大院医)、福崎英一郎(阪大院工)、馬場健史(九大院医)
  • 発表論文等:Ogawa T. et al. (2017) Rapid Commun. Mass Spectrom. 31(11):928-936