稲わらの消石灰前処理物を水・炭酸水洗浄することで糖化工程が簡素化できる

要約

稲わらの酵素糖化を効率化するために行う消石灰での前処理の後に、水及び炭酸水を用いた洗浄工程を導入し、繊維質からカルシウムを除くことで、現行の炭酸ガス加圧条件下での糖化ではなく、より簡素な工程である常圧での炭酸ガス置換条件下で糖化を行うことが可能となる。

  • キーワード:稲わら、消石灰、酵素糖化、洗浄、カルシウム
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・生物資源変換ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

晩秋に大量発生する稲わらは、降雨が多い時期にあたるため乾燥不十分となり腐敗しやすいが、消石灰を加えて湿式粉砕処理を施すことで試料の長期保存と糖化前処理を同時に行うことが可能になる。本法では、稲わら中の発酵性糖質のロスを抑えるため、繊維質を洗浄せずにCO2を用いて中和して酵素糖化反応を行う(RT-CaCCO法、2013年度研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nfri/2013/nfri13_s04.html)。ただし本法では消石灰の中和によって生じる炭酸カルシウムの影響によりpHが中性付近を示すため、糖化に適する弱酸性域までpHを低下させる必要がある。従来法ではCO2を加圧してpHを下げるための耐圧容器を用いていたが、本研究では前処理後の稲わらからカルシウムを洗浄除去し、より簡素な糖化工程の導入を図る。

成果の内容・特徴

  • 消石灰と混合して湿式粉砕した後に常温保存することで前処理を行った稲わらは糖化効率が上昇する。モデル試験(図1)において、本前処理を行った稲わらに対して、その約20倍重量(対乾燥重量比)の水を用いて繊維質を繰り返し洗浄すると、カルシウムが洗浄液中に溶出するが、回数を繰り返すと溶出が鈍化する。それに対して、3、4回目の洗浄時に繊維質を攪拌しつつCO2を通気する事により、消石灰が水溶性の炭酸水素カルシウムに変化し、投入したカルシウムの残存率は大きく低下する。CO2通気により溶出した炭酸水素カルシウムは、空気を通すことで炭酸カルシウムとなって沈殿する。炭酸カルシウムの7割は焼成により酸化カルシウムに再生する。
  • 稲わらを前処理後に炭酸ガスで中和した試料(A)、水で4回洗浄した試料(B)及び前項で説明した水・炭酸水洗浄後の試料(C)(表1)を基質として、複数の条件下で酵素糖化を行った際のグルコース遊離率を図2に示す。塩酸を用いてpH5に合わせてから50mM酢酸緩衝液中で糖化した条件では、全試料に対して6割以上のグルコース遊離率を与え、CO2を用いた加圧条件(分圧1.5atm)での糖化時には、全試料でグルコース遊離率が微減した。それに対して、常圧でのCO2置換条件下(分圧1.0atm)では、(A)及び(B)では、CO2加圧条件と比較してそれぞれ16.5%及び12.1%グルコース遊離率が低下したのに対し、(C)では同等の遊離率となった。このように、水・炭酸水洗浄後の試料では、中和のための酸や緩衝液を用いずに常圧・CO2置換条件下での酵素糖化を行うことが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 投入した消石灰中カルシウムの内、炭酸カルシウムとして回収できる量は投入量の28%程度であり、カルシウムの多く(投入量の36%)は排液中に酢酸カルシウム等の状態で存在する。排液中のカルシウムイオン回収が今後の検討課題である。
  • 本成果である糖化簡素化は、RT-CaCCO法における炭酸ガス中和工程の利点である糖質の流亡抑制、排水処理工程の負荷低減等とのトレードオフとなると考えられる。カルシウム塩の存在は、発酵工程によっては、発酵収率や発酵産物の精製工程に影響を及ぼすことがある。本成果は、稲わらからの糖化物製造と利用の可能性を拡げるものと期待される。

具体的データ

表1 稲わら原料、水洗浄物、水・炭酸水洗浄物の成分組成;図1 水洗浄、水・炭酸水洗浄稲わらのカルシウム残存率;図2 水洗浄、水・炭酸水洗浄稲わらの糖化処理によるグルコース遊離率

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:山岸賢治、池正和、関笛、徳安健
  • 発表論文等:池ら(2017)FFIジャーナル、222(4):313-320