増粘多糖類の添加による米粉パンの澱粉消化性に対する抑制効果

要約

キサンタンガムを粉の重量に対して2.0%添加すると米粉パンに含まれる澱粉の消化が抑制される。その抑制効果はキサンタンガム自体の抑制作用に加えて、キサンタンガム添加によるパンのテクスチャーの変化が関与している。

  • キーワード:澱粉消化性、キサンタンガム、米粉パン、テクスチャー
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・食品品質評価制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

糖尿病の患者数が増え続けているため、特に澱粉を多く含む穀類および穀類加工食品については、食後血糖値の上昇抑制効果を期待して、澱粉の消化酵素による分解速度を緩やかにする素材および食品加工技術の開発が求められている。これまでに、多様な加工食品に使用されている増粘多糖類と澱粉を単純に混合することによって、澱粉の消化速度が抑えられることを明らかにしている。そこで本研究では、小麦粉に米粉を1:1の割合で配合したパン(米粉パン)に、増粘多糖類の中で澱粉と混合することによって澱粉の消化速度を遅くする効果が高かったキサンタンガムとグアガムを添加することにより、パンに含まれる澱粉の消化酵素による分解速度に及ぼす増粘多糖類の影響を明らかにすることを目的とする。また、増粘多糖類の添加によるパンのテクスチャーの変化を解析することにより澱粉の消化速度に影響を及ぼすパンの物理的要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • パンの物理的要因を排除し、増粘多糖類の作用を確認するために、クラム(パンの耳を取り除いた中身)の部分を凍結乾燥後粉砕した試料について、総澱粉量に対する一定反応時間での消化酵素によって分解される澱粉の量の比率である澱粉分解率を測定した結果、キサンタンガム2.0%添加試料が多糖類を添加していない対照試料よりも有意に低い値を示す(図1a)。
  • ヒトの咀嚼を模擬して、クラムを加水後ミンサーで破砕した試料の澱粉分解率を測定したところ、キサンタンガム2.0%添加試料の値が最も低く(図1b)、凍結乾燥後粉砕した試料(図1a)よりも対照試料との差が顕著である。
  • 添加した多糖類のパンのテクスチャーに及ぼす影響は、グアガムについては対照試料と比べてパンの比容積、硬さ、破断特性、伸長度等に顕著な差は見られなかったが、キサンタンガムを添加することによってパンの比容積は低下し、クラムの硬さは上昇する(図2)。
  • 大変形下(変形率80%)での圧縮試験を2回繰り返した際のクラムの厚さの比率を回復率として測定した結果、クラムの内部結着力の指標となる回復率は、増粘多糖類の添加によって低下し、キサンタンガム2.0%添加試料が最も低い値を示す(図3)。キサンタンガムを2.0%添加することによって認められた澱粉消化性に対する有意な抑制効果は、凍結乾燥後粉砕した試料よりもミンサーで破砕して食塊を形成した試料で顕著であったことから、キサンタンガムが示す増粘効果や澱粉粒に吸着することによって澱粉の酵素分解性を抑制するキサンタンガム自体の作用に加えて、クラム組織の内部結着力を高めることによって食塊の拡散速度が遅くなったために澱粉の酵素分解性が抑制されていると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • キサンタンガムの澱粉消化性に対する抑制効果が実際の食品の形態でも実証されたため、緩やかな食後血糖値上昇を目指した食品加工技術の開発に寄与する知見である。
  • キサンタンガムをパンに添加した結果、比容積が低下し、硬化速度が上昇したため、高品質化を図るためにはさらなる加工条件等の検討が必要である。

具体的データ

図1 増粘多糖類を添加した米粉パンの消化酵素による澱粉分解率;図2 米粉パンの硬さ(圧縮応力値)の経時変化キサンタンガムを添加したすべてのサンプルについてP<0.001の水準で対照群と有意に異なる(Tukey法による検定)。データは平均値標準偏差(n=10)で示す。;図3 圧縮試験によるクラムの回復率の比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:佐々木朋子
  • 発表論文等:Sasaki T. (2018) Cereal Chem. 95(1):177-184