卵白ペプチドはマヨネーズ中の脂質酸化を抑制する

要約

卵白ペプチドはマヨネーズのような乳化食品中の脂質酸化を抑制する。その抑制効果は同じアミノ酸組成を持つ卵白タンパク質やアミノ酸混合物よりも高く、抑制に寄与するメカニズムとしては、ラジカル消去能よりも二価鉄キレート能の方が大きい。

  • キーワード:抗酸化、二価鉄キレート、マヨネーズ、ラジカル消去、卵白ペプチド
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・成分特性解析ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

マヨネーズの主な原料は植物油、卵黄、食酢である。卵黄中に多く含まれる鉄はホスビチン(卵黄タンパク質の1つ)と結合して安定的に存在しているが、酸性下(食酢による)で遊離した鉄が油(脂質)の酸化の引き金になる。酸化が引き起こされると風味に悪影響を与え、商品価値の低下を招く。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は鉄を捕捉してマヨネーズの脂質酸化を効果的に防ぐことが知られているが、化学合成品であるため消費者からは天然由来のものが求められている。これまでビタミンCやビタミンEを含む様々な天然抗酸化成分が検討されているものの、マヨネーズの酸化に対して効果を示すものはほとんどない。紫コーン外皮抽出物の有効性が報告されているが、この抽出物ではマヨネーズの色調に影響を与えるという問題が生じる。本研究は食品の色調に影響することなく、酸性下で脂質酸化を防ぐ天然成分候補として卵白由来のタンパク質、ペプチド、アミノ酸について検討する。また、その抗酸化効果のメカニズムも明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究での卵白ペプチドとは、卵白タンパク質を加水分解して得られるペプチド混合物である(平均分子量は1,100、以下、ペプチド)。ペプチドやタンパク質はアミノ酸がペプチド結合したものである。卵白ペプチドを構成するアミノ酸の組成を表1に示す。アミノ酸を同じ組成比になるように調製した混合物(以下、アミノ酸)も用意し、タンパク質、ペプチド、アミノ酸を抗酸化試験に供する。
  • マヨネーズの簡易モデルとして、酸性卵黄液(pH4、卵黄固形分1%溶液)を調製し、タンパク質、ペプチド、アミノ酸を添加する。これを55°Cで一定時間保温後、卵黄液中から有機溶媒で脂質を抽出後に蛍光を測定し、これを脂質酸化の指標とする。抗酸化効果は、ペプチド、アミノ酸、タンパク質の順に高い(図1)。
  • 酸性下(pH4)での抗酸化効果のメカニズムについてラジカル消去能と二価鉄キレート能の両方で分析すると、ラジカル消去能は、アミノ酸がタンパク質やペプチドよりも高く、二価鉄キレート能は、ペプチドがアミノ酸やタンパク質よりも高い(図2)。この結果は、ペプチドの抗酸化効果が主に二価鉄キレート能によることを示す。
  • 試作マヨネーズを調製して過酸化物価を指標にした卵白ペプチドの抗酸化効果は、図3に示すように、濃度依存的である。

成果の活用面・留意点

  • 卵白ペプチドは、EDTAの代替品となりえる天然抗酸化成分である。さらにマヨネーズの色調に影響しないという利点がある。
  • 8名のパネルによる官能試験を実施し、卵白ペプチド含有マヨネーズはEDTA含有マヨネーズと同等の高い官能評価点を示すことを確認している。
  • 卵白ペプチドの抗酸化効果は酸性下での検討であるが、一般的に食品は酸性であることが多く、様々な食品の脂質酸化防止に適用可能である。
  • 卵白ペプチド中の最も効果の高いペプチドが何かについて今後の検討が必要である。

具体的データ

表1 卵白ペプチドのアミノ酸組成;図1 酸性卵黄液中の脂質に対する抗酸化効果の比較;図2 ラジカル消去能(A)と二価鉄キレート能(B);図3 マヨネーズの脂質過酸化における卵白

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:小竹英一、小林英明(キユーピー)、笹原亮(キユーピー)、與田昭一(キユーピー)
  • 発表論文等:Kobayashi H. et al. (2017) Biosci. Biotechnol. Biochem. 81(6):1206-1215