近赤外光を用いた非破壊モモ熟度(食べ頃)指標の開発

要約

ペクチン分解物の量に着目した分光学的非破壊的指標(近赤外波長領域の960nmと810nmにおける拡散反射強度の差)は、モモの熟度指標として利用できる。

  • キーワード:近赤外、モモの追熟、ペクチン分解物
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・非破壊計測ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

モモのように追熟性の果実では、収穫適期の判断は特に重要である。一方で収穫後においても、食べ頃に熟しているかどうかの評価が難しく、例えば、糖度が同等であっても未熟な硬い果実と、完熟した柔らかい果実では食味が大きく異なる。追熟による果実の軟化は、細胞壁に含まれる酵素によるペクチンの分解により進行すると考えられている。そこで、収穫後の果実の食べ頃評価のため、ペクチンの分解物の量を指標とした分光学的非破壊的熟度指標を開発し、効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • クロロフィルの吸収(670nm)を利用する既存の果実熟度指標に対し、ペクチンの分解に特徴的な吸収波長である960nmに着目した、収穫後の追熟を数値化しうる新たな分光学的非破壊的熟度指標の有効性を明らかにしている。
  • 測定方法は図1のように照射部と受光部が一体化したプローブを果実に接触し、果実内部を通ってきた光(拡散反射光)を検出して利用する。拡散反射光の強度には個体ごとに異なる光の散乱が変動として加算されるので、これを補正するため比較的吸収のない810nmの強度を基準とし、以下の式でモモの熟度指標(Index of maturity for peaches:IMP)を定義する。
  • IMP=A960−A810
  • A960、A810は、それぞれ960nm、810nmにおける拡散反射強度である。単純な2波長強度の差であり、熟度の異なる多数のモモを測定して検量線を作成する必要はない。一方でクロロフィルの吸収を利用した既存の指標はIAD=A670-A720と定義される。ここでA670、A720は、それぞれ670nm、720nmにおける拡散反射強度を表す。
  • 6種のモモ(さくら(晩生)、マロンなピーチ(晩生)、「清水白桃」(中生)、「浅間白桃」(中生)、「白鳳」(中生)、「嶺鳳」(中生)、「」なしは商品名)について、購入日を0日目とし、以後5日間、10個体を室温(25°C)に放置し、一日おきに測定したIADおよびIMPを図2に示す。IADの場合、一部の品種では購入日以降の変化はほとんど見られない(図2上)が、新規指標であるIMP(図2下)ではモモの追熟による変化を明瞭にとらえることができる。

成果の活用面・留意点

  • センシングに2波長しか使用しないため、2個のLEDのみで小型かつ安価な追熟度センサーが実現でき、追熟性の果実の収穫後の商品管理や精密出荷に利用可能である。
  • 既存の糖度選果機のハードウェアを変更することなく搭載できる可能性があり、搭載できれば、より細かな出荷条件の設定も可能である。
  • 2016年度に試験のために購入した約1800果のモモのケースを当てはめると、実売されているモモのうち未熟果が約20%、過熟果が約3%程度含まれると考えられる。2016年農林水産省統計によれば全国の中央卸売市場でのモモの総取引額は約153.9億円であることから、過熟状態のモモが4億円相当流通している可能性がある。中央市場以外の流通場面も考慮すると、当該技術によって年間10億円近いアウトカムが期待できる。

具体的データ

図1 接触型非破壊糖・酸度計(フルーツセレクター K-BA100R、クボタ)によるモモ果実測定の様子;図2 6種のモモの購入後におけるモモ熟度指標(IADおよびIMP)の経日変化
IADとIMPの比較のため縦軸の刻み幅0.2の実寸を同じにして表示

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(非破壊)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:池羽田晶文、上平安紘、関山恭代
  • 発表論文等:
  • 1)池羽田(2018)食糧-その科学と技術-、56:33-42
    2)Uwadaira Y. et al. (2018) Heliyon 4(2):e00531 doi:10.1016/j.heliyon.2018.e00531