そばの製粉とそば麺の茹で調理による放射性セシウムの低減
要約
そば粉の放射性セシウム濃度は、製粉前の玄そばよりも低くなる。そば麺を茹で調理すると、麺に含まれる放射性セシウムは茹で湯とすすぎ水へ移行し、茹で麺の放射性セシウム濃度は茹でる前の1/2以下となる。
- キーワード:放射性セシウム、そば粉、そば麺、製粉、茹で調理
- 担当:食品研究部門・食品安全研究領域・食品安全性解析ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-7991
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
東京電力福島第一原子力発電所事後以降、わが国では食品中の放射性セシウム検査を実施し、食品衛生法で規定された基準を満たす農産物や食品のみが出荷される体制となっているが、正確なリスク評価・管理のためには、農産物の加工・調理過程における放射性セシウムの動態も把握する必要がある。そばはわが国で伝統食として古くから食されており、米や麦に次ぐ主食である。現在はそば麺(そば切り)として、全国的に食されていることから、玄そばの製粉とそば麺の茹で調理における放射性セシウムの濃度や量の変動を明らかにし、科学的データを行政や食品産業、および消費者に提供し、食品中の放射性物質に関する正しい理解促進に役立てる。
成果の内容・特徴
- 玄そばは殻付きのまま粉砕し、果皮、種皮等、そば粉にふるい分けると、そば粉の加工係数【そば粉の放射性セシウム濃度(Bq/kg、新鮮重)/玄そばの放射性セシウム濃度(Bq/kg、新鮮重)】は在来種A、Bでそれぞれ0.6と0.8となる(表1)。そばの放射性物質検査が殻付きの玄そばの状態で実施される場合、可食部のそば粉の放射性セシウム濃度は玄そばよりも低くなる。
- そば生麺を茹で調理すると、茹で麺の放射性セシウム濃度は生麺よりも低下する(図1)。30秒から2分間の茹で調理を行なうと、そば茹で麺の加工係数【茹で麺の放射性セシウム濃度(Bq/kg、新鮮重)/生麺の放射性セシウム濃度(Bq/kg、新鮮重)】は、0.3-0.5の範囲となる(表2)。そば茹で麺は、30秒以上の茹で調理により放射性セシウム濃度は茹でる前の1/2以下に低下する。この時の茹で湯の放射性セシウム濃度は、茹で麺の約1/20となる。なお、在来種2試料間に違いは認められない。
- 茹で調理前の生麺に含まれる放射性セシウム量(100%)に対し、65%が茹で麺に残存し、30%が茹で湯に、5%がすすぎ水に移行する(図2)。
成果の活用面・留意点
- 玄そばは異なる地域で栽培された放射性セシウム濃度の異なる2011年産の在来種2試料(A、B)を用いている。
- そば製麺には、そば粉と小麦粉を7:3の割合で混合した粉を用いている。
- そばの製粉や製麺方法は多様であり、製造者によって製粉工程や製麺の材料比が異なることから、この加工係数や分配割合の数値とは完全に一致せず、幅があることに留意する。なお、茹で湯の連続利用やそれに伴う長時間の加熱による濃縮は、茹で湯(そば湯)の放射性セシウム濃度を上昇させることに留意する。
- 玄そばの放射性セシウム濃度にそば粉の加工係数をかけると、そば粉の放射性セシウム濃度となる。加工係数を用いると、加工・調理前の放射性セシウム濃度から加工・調理後の放射性セシウム濃度が推定できる。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2014~2015年度
- 研究担当者:八戸真弓、濱松潮香、川本伸一、二瓶直登(東京大)
- 発表論文等:Hachinohe M. et al. (2018) J. Food Prot. 81(6):881-885