良食味品種の米飯の咀嚼特性は品種間では変わらない

要約

新品種を含む良食味の粳品種から、同一条件で米飯を調製し、自然な咀嚼中の筋電図により個人の咀嚼挙動の特徴がわかる。同一人内では加工条件で差を認めた筋電位変数に良食味品種間では有意差が認められず、習慣的な米飯の咀嚼挙動は安定している。

  • キーワード:水稲品種、米飯、テクスチャー、咀嚼、筋電図
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・食品物理機能ユニット
  • 代表連絡先:029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲の生産調整の廃止に関連して、各地で良食味を特徴とする主食用の新品種が続々と開発されている。過去の知見から、米飯が良食味と判断されるための要因とその範囲は判っており、その中でも硬さや粘りは重要な項目である。筋電図から得た変数は、一般の機器測定で得られる硬さ等のテクスチャーに相関するだけでなく、摂食中に生じる新たなテクスチャーを捉えることも可能とされている。
本研究では、日本人の主食である米飯の自然な条件での咀嚼特性を明らかにするため、健康な成人の筋電位を測定する。第一の目的は、代表的な良食味品種で精米法、炊飯法を変えた場合に、米飯の咀嚼特性の変化が、筋電図のどの変数に現れるかを明らかにすることである。第二の目的は、良食味とされる数品種で品種以外の条件をすべて揃えて米飯を調製した時に、咀嚼特性に品種間差があるか否かを明らかにすることである。

成果の内容・特徴

  • 良食味品種として知られている「コシヒカリ」について、精米条件や調理条件により米飯のテクスチャーを変えて、被験者が咀嚼中の筋電図を得る。
  • チューインガムを指定した側で噛むと、咀嚼する毎に咀嚼側咬筋が反対側より大きな筋電位、その間の開口している時に舌骨上筋群の弱い筋活動が現れる(図1左)。筋電位の強度や咀嚼周期には、個人の咀嚼挙動の特徴が現れる。米飯の一口を自由に咀嚼させると、ほとんどの場合、咀嚼側は何回か交代し、途中で部分的に嚥下する(図1右)。
  • 咬筋の筋活動は、米飯が硬くなると大きくなる。精米歩留り、炊飯条件が異なる米飯でも、硬さが揃っていれば咬筋活動は近い。舌骨上筋群の筋活動は、糯米飯や粥に近い飯などの粘りの強い場合に相対的に大きくなるが、良食味品種においてはほとんど差がない。
  • 茶碗から箸を用いて自由に一口をとる日本人の自然な摂食条件で調べると、平均的な一口量は9から10g程度である。図2に示したように、個人差、とくに性別による差が大きいが、同一人内では安定しており米飯の種類によっては変わらない。
  • 2017年に山形市で生産された「雪若丸」、「はえぬき」、「つや姫」、「コシヒカリ」について、栽培、精米、炊飯、および被験者への提供に至るまで同一条件の試料を調製する。4品種の提示順はランダムとし、一口量を9gに固定した場合と、自由に摂食した場合の筋電位を、左右の咬筋および舌骨上筋群から測定する。
  • 標準試料としてチューインガムおよび4品種とは別に調製した米飯を用いて、個人差が大きい筋電図を標準化する。調べた50以上の筋電位変数において、一口量を固定した条件でも、普段の摂食時と同じように自由にした条件でも、有意な品種差は全く認められない。
  • 過去の知見では、アミロース含量が大きく異なる品種を比較し、アミロース含量と咀嚼特性に相関関係が報告されている。良食味が特徴の品種間ではアミロース含量の差が小さく、図3に模式的に示すように筋電図に品種差が現れない。
  • 以上より、良食味の新品種が開発されても、咀嚼特性は類似しており、日本人の習慣的な米飯の摂食挙動に及ぼす影響は小さいと予測される。

成果の活用面・留意点

  • 筋電位試験を行う前に人対象研究倫理審査委員会の承認を得る。
  • 咀嚼挙動には個人差が大きいため、筋電位を測定する際には標準試料が必要である。標準試料として、物性が安定しているチューインガムを用いる場合と、試料に咀嚼特性が近い米飯を用いる場合とで、得られる結果には差異がない。
  • 米飯では、習慣的な一口量が男女で大きく異なるため、咀嚼挙動の解析の際に性差を考慮する必要がある。

具体的データ

図1 チューインガムの咀嚼側を指定した時(左)と米飯9gを自由に咀嚼した時(右) の筋電図の例,図2 自然な摂食時の米飯の一口量,図3 アミロース含量が異なる米品種の筋電位変数の模式図

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:神山かおる、鈴木啓太郎、後藤元(山形県農総研セ)
  • 発表論文等:
    • 神山(2016)日咀嚼誌、26(1):14-19
    • 神山(2016)日咀嚼誌、26(2):56-61
    • Kohyama K. et al. (2019) Food Sci. Technol. Res. 25(4):507-517
    • 神山(2019)日咀嚼誌、29(1):17-22