サケ白子由来DNAからのナノファイバー製造法

要約

サケ白子に含まれるDNAを原料としてナノファイバーを製造する方法である。このナノファイバーは、核酸系脂質との複合体化により簡便に製造でき、導電機能を示す。

  • キーワード:生物資源、DNA、脂質、ナノファイバー、静電気力顕微鏡
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・分子生物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8013
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農林水産業の持続的な発展のためには、バイオロジーやバイオテクノロジーで解明された生物機能を有効に活用して新しい物質や素材を開発し、新産業を創製していくことが必要不可欠である。農林水産資源は再生可能資源であり、しかも農林水産資源を構成するバイオ分子は人工物を凌駕する精密な構造や機能をもつため、新素材を作るための原料として適する。例えば、農林水産資源に含まれるDNAは、精密な二重らせん構造と分子認識機能、光・電子機能をもつ高分子であり、合成高分子には無い様々な特性をもつ。しかし一方で、DNAを豊富に含むサケの白子やホタテの生殖腺などは大量に廃棄されており、未利用資源の活用が重要な課題となっている。本研究ではDNAを超分子化学的手法によって加工し、近年フィルターや様々な繊維製品に活用されるナノファイバーを製造すること、さらにこのナノファイバーの電気的な機能を評価し、DNAを原料とした新素材製造基盤技術の確立を目的としている。

成果の内容・特徴

  • DNAナノファイバーは、サケ白子由来のDNAと、ヌクレオチド系脂質(図1)を水中で加熱溶解した後、室温に放置することで、自己集合プロセスにより得られる。
  • DNAとヌクレオチド系脂質から得られたナノファイバーは、直径4~5nm、長さ~5μmで軸比(長さ/直径)が1,000以上のナノファイバー構造である。一方、DNA単独ではファイバー構造を形成しない(図2)。
  • 静電気力顕微鏡による解析の結果、DNAとヌクレオチド系脂質から得られたナノファイバーは、高いコントラストの像を与えたが、DNA単独ではほとんど像が得られない。このことは、本実験条件下でナノファイバーが導電性を有する一方、DNAは導電性をほとんど示さないことを示唆する。すなわち、DNAをナノファイバーへ加工することにより導電性が発現すると考えられる(図3)。
  • 導電性発現は、DNAとヌクレオチド系脂質のハイブリッド化により核酸塩基の電子状態が変化したためと考えられる。以上の通り、サケ白子由来DNAをヌクレオチド系脂質とハイブリッド化させ加工することにより、導電性ナノファイバー素材の製造が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は様々な塩基配列のDNAに適用できるが、10量体以下程度の短いDNAは適さない。
  • DNAナノファイバーは薄膜加工可能なため、導電性薄膜やフィルターへの応用が期待できる。
  • ナノファイバーの導電性について定量的なデータを得るためにはさらなる検討が必要であるが、DNA配向化フィルムは導電性高分子と同程度の導電率を示すことから(川崎ら,蛋白質 核酸 酵素,49,1328,2004.)、本ナノファイバーも高い導電性能をもつ可能性がある。

具体的データ

図1 ヌクレオチド系脂質の構造,図2 a)DNA及びb)DNAとヌクレオチド系脂質のハイブリッド化により得られたナノファイバーの原子間力顕微鏡による形状像。Bar=1μm。,図3 DNA単体( a)中破線で囲まれた部分)及びDNAとヌクレオチド系脂質の複合体化により得られたナノファイバー(アーチ状の構造)混合サンプルのa)原子間力顕微鏡観察による形状像及びb)静電気力顕微鏡像。a)、b)は同一視野であり、ナノファイバー部分はa)、b)とも明瞭に観察されているが、DNA単体部分はb)では観察されない。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:岩浦里愛
  • 発表論文等:
    • Iwaura R. et al. (2016) ChemPlusChem 81(11):1230-1236
    • Iwaura R. (2017) Soft Matter 13(44):8293-8299
    • Iwaura R. (2019) Chem. Eur. J. 25(9):2281-2287 doi:10.1002/chem.201804960
    • 岩浦ら「ハイドロゲル化剤」特許第3660282号(平成17年3月25日)