マイクロチャネル乳化による機能性成分を内包した高品質食品用エマルションの高効率作製法

要約

マイクロチャネル乳化技術の利用により、機能性成分を内包した単分散エマルションを高効率で作製する方法である。作製されたエマルションおよび微小油滴に内包された機能性成分は、いずれも高い保存安定性を有している。

  • キーワード:マイクロチャネル乳化、機能性成分、微小油滴、生産性、保存安定性
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・食品物理機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8013
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品の高付加価値化を実現するうえで重要な要素として、マイルドな加工プロセスによる高品質化ならびに製造された食品の変質、劣化が抑制された高安定化が挙げられる。高品質な乳化食品を製造するためには、加工時の温度上昇、変質、および劣化が生じにくい乳化技術の利用が有効である。また、乳化食品に含まれる微小液滴のサイズ分布は、製品の外観、物性、保存安定性等に影響を及ぼすことが知られている。マイクロチャネル乳化は、極めてマイルドなプロセスで均一サイズの微小液滴を含む単分散エマルションを作製可能な先進乳化技術である。マイクロチャネル乳化では、独特な微細構造を持つマイクロチャネルを介して液滴材料(分散相)を連続相中に圧入した際に、油水界面が自発的に変形して微小液滴が作製される(図1a)。マイクロチャネル乳化の利用により、熱や酸素等の外部環境に対して不安定な機能性成分を内包した高品質かつ高安定なエマルションの高効率作製が期待される。ところが、マイクロチャネル乳化の食品応用に重要な機能性成分を利用した際の液滴作製挙動や品質安定性については、明らかになっていない点が少なくない。本研究では、マイクロチャネル乳化を利用して、機能性成分を内包した食品用エマルションの作製特性および物理的・化学的安定性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 液滴材料である分散相として、β-シトステロールとγ-オリザノールの混合物もしくはアスタキサンチン含有オイル(市販の食品用素材)を添加した中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いる。連続相として、食品用乳化剤を添加した水溶液を用いる。親水性表面を持つ非対称貫通型マイクロチャネルアレイ(シリコン製)の利用により、脂溶性機能性成分を内包した単分散O/W(Oil-in-Water)型エマルション(平均液滴直径30~35μm程度、相対標準偏差5%未満)が作製される(図1b,c)。
  • マイクロチャネル乳化に用いる分散相として、ベタニンを添加した極微小水滴を含む大豆油を用いる。連続相として、食品用乳化剤を添加した水溶液を用いる。非対称貫通型マイクロチャネルアレイを利用したマイクロチャネル乳化により、水溶性機能性成分を内包した単分散W/O/W(Water-in-Oil-in-Water)型エマルション(平均液滴直径45μm程度、相対標準偏差10%未満)が作製される(図2)。
  • 液滴作製時における温度上昇は認められないため、マイクロチャネル乳化による機能性成分の変質は最小限に抑制される。この結果は、マイクロチャネル乳化における極めてマイルドな液滴作製プロセスに起因している。
  • 非対称貫通型マイクロチャネルアレイを利用した乳化時において、機能性成分を内包した均一サイズの微小油滴(もしくは極微小水滴を内包した微小油滴)の生産性(分散相流束)は、最大で50L/(m2 h)程度である。
  • マイクロチャネル乳化により作製される機能性成分内包O/W型エマルションの平均液滴径と液滴径分布は、常温で1ヶ月保存後も変化は見られず、高い合一安定性を有している。
  • 均一サイズの微小油滴に内包された機能性成分は、常温で1ヶ月保存後も80%以上の高い保持率を維持可能である(図3)。特に、アスタキサンチンの保持率は、1ヶ月保存後も90%台の高い値を示している。

成果の活用面・留意点

  • 分散相流束が臨界値よりも低い範囲では、機能性成分を内包した均一サイズの微小油滴の大きさ及び分布はほとんど変化しないため、乳化時の操作制御性に優れている。
  • 不安定な脂溶性機能性成分を利用した高品質な乳化食品の設計・開発に活用できる。

具体的データ

図1 非対称貫通型マイクロチャンネルを用いた脂溶性機能性成分を内包した単分散O/Wエマルションの作製の模式図(a)および顕微鏡画像(b,c),図2 非対称貫通型マイクロチャンネルを用いた水溶性機能性成分(ベタニン)を内包した単分散W/O/Wエマルションの作製の顕微鏡画像,図3 単分散O/Wエマルションに内包された機能性成分の保持率の経時変化

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:小林功、Nauman Khalid(筑波大)、Ana Paula Eskildsen Paganoa(サンパウロ大)、Marcos A. Neves(筑波大)、Erick Leite Bastos(サンパウロ大)、中嶋光敏(筑波大)、植村邦彦
  • 発表論文等:
    • Khalid N. et al. (2017) Food Bioprod. Process. 102:222-232
    • Khalid N. et al. (2017) Colloids Surf. B: Biointe. 157:355-365
    • Eskildsen Pagano A. et al. (2018) Food Res. Int. 109:489-496