繰り返し衝撃によるイチゴの損傷を防止する包装設計

要約

イチゴ輸送用の多段積み包装において、段ボール箱の間もしくは最底面に既製の板状緩衝材を配置する実用的な緩衝包装方法である。各段に収納されたイチゴに蓄積される衝撃1回あたりの損傷程度を変化させることができ、衝撃に対する損傷のしやすさが異なるイチゴの混載が可能となる。

  • キーワード:イチゴ、繰り返し衝撃、蓄積疲労、緩衝包装、流通
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・食品流通システムユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8015
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イチゴの輸送時における損傷は、主に振動または衝撃の繰り返しによって発生する。従来、それらに起因する損傷は加速度と加振時間または衝撃の繰り返し回数の2要因によって評価されている(S-N曲線理論)。しかし、衝撃による物品の損傷を評価するための損傷限界曲線(DBC)理論を考慮すると、繰り返し衝撃による損傷発生を正確に評価するためには、それらの2要因に衝撃パルスの速度変化を加えた3要因を考慮する必要があると考えられる。
そこで、本研究では繰り返し衝撃によるイチゴの損傷発生における3要因の影響を明らかにするとともに、既製の包装資材を活用しつつ、それらの3要因を制御可能な緩衝包装方法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 多段積み包装されたイチゴの繰り返し衝撃による損傷発生を、従来のS-N曲線理論を用いて速度変化の影響を考慮せずに予測した場合、落下試験の結果(実測)と比較し、損傷が過小に評価される(表1)。段が増加するにつれて最大加速度が減少する傾向がみられたが、逆に速度変化は増加する傾向となることから(表2)、予測値と実測値との差異は速度変化の違いによってもたらされたと考えられる。このことは、繰り返し衝撃による損傷の評価において3要因を考慮しなければならないことを実証している。
  • 1の実証を踏まえた、多段積み包装向けの実用的な緩衝包装方法を示す。この方法では、板状の緩衝材を多段積み包装における最下段の箱底、もしくは各段の間に配置した状態で全体を結束する(図1)。板状の緩衝材として、段ボール板やプラスチックもしくはゴム系の素材が利用でき、箱を含め、既製の包装資材を活用できる。
  • 板状緩衝材の配置によって、各段において想定される衝撃1回あたりに蓄積される損傷の程度(損傷度)を様々に変化させることができる(図2)。このことにより、衝撃1回あたりの損傷度が増加すると予測される位置が生じる可能性もあるが(図2CおよびD)、衝撃1回あたりの損傷度が大きくなると予測される位置に果実硬度が大きいもの、小さくなると予測される位置に果実硬度が小さいものを収納すれば、損傷を防止しながら、衝撃に対する損傷のしやすさ(易損性)が異なるイチゴを混載し効率的に輸送することが可能となる。
  • 3の特長は、品種や収穫時期の違いによる、易損性の変化に対応可能な包装設計を可能とし、イチゴの長距離輸送に貢献できる。

成果の活用面・留意点

  • 緩衝材の材質や厚さの選定を行う際には、多段積みされた段ボール箱の崩れが誘発されないことを前提とする。
  • 緩衝材として使用する素材およびその厚さは、イチゴの衝撃に対する易損性および実輸送において想定される衝撃発生状況などを考慮した上で選定する。
  • 果実硬度による選別を行う場合、非破壊方式による硬度判別技術と組み合わせて使用する。

具体的データ

表1 5段積み包装の2~5段目に収納されたイチゴにおける衝撃1回あたりの損傷度の予測値と実測値(落下高さ:0.2m),表2 5段積み包装を0.2mの高さから落下させた際の2~5段目における衝撃加速度および速度変化,図1 板状緩衝材の配置方法,図2 板状緩衝材の配置による各段において想定される衝撃1回あたりの損傷度の変化シミュレーション

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:北澤裕明、斎藤勝彦(神戸大)、石川豊
  • 発表論文等:
    • Kitazawa H. et al. (2014) Packag. Technol. Sci. 27(3):221-230
    • 北澤、斎藤(2014)日本包装学会誌、23(4):277-285
    • Kitazawa H. et al. (2015) J. Packag. Sci. Technol., Jpn. 24(2):69-78
    • Kitazawa H. (2018) J. Packag. Sci. Technol., Jpn. 27(1):45-54