非破壊でリンゴの内部褐変発生を予測する技術

要約

リンゴ用の選果機で取得した可視-近赤外分光スペクトルに基づき、スペクトル取得1ヶ月後に当該個体に内部褐変が発生するか否かを予測する技術である。同選果機は全国の選果場に導入されているため、アルゴリズムの導入のみで容易に現場実装できる。

  • キーワード:リンゴ、内部褐変、可視-近赤外分光法、機械学習、統計解析、将来予測
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・非破壊計測ユニット
  • 代表連絡先:029-838-8012
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

春から夏にかけて流通するリンゴは、4月頃に非破壊内部品質センサ(選果機)によって糖度、酸度、内部褐変の有無などが調査される。その後冷蔵庫に保管され、市場の需給状況に応じて随時出荷される。そのため、選果と消費者の喫食の間に時間的なギャップが生じ、「内部褐変なし」と判定された個体でも、その後内部褐変が発生して消費者のクレーム対象になる事例が起こっている。また、大量のリンゴを扱う流通現場では、出荷毎に選果を行うのは現実的ではない。青森県産業技術センターりんご研究所によれば、県の年間出荷額約570億円に対し、内部褐変が多発する年では損失が約80億円に達すると試算されており、選果後の「将来」に内部褐変が発生するかどうかを予測する技術の開発が求められている。そこで本研究では、選果機でリンゴの可視-近赤外分光スペクトルに基づき、スペクトル取得後に内部褐変が発生するか否かを予測する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • JA共選施設で選果に用いられている非破壊内部品質センサを用い、リンゴ「ふじ」576個の透過スペクトルを、装置の上下に設置されている分光器で取得する。測定した試料は再度冷蔵庫で保管し、1ヶ月後に赤道部の切断面をスキャンして内部褐変の有無を判定する(図1)。
  • 上下の分光器で取得したスペクトルに様々な前処理を施し、機械学習の一種であるアンサンブル学習と、従来から分光スペクトル解析に用いられている統計解析の一種であるpartial least squares discriminant analysis (PLS判別分析)により、分光器毎・前処理毎に内部褐変の発生を予測するモデルを構築する。
  • モデルを複数個組み合わせ、いずれか1つのモデルで「褐変」と判定された試料は褐変とみなす「メタモデル」を作成する(図2)。
  • PLS判別分析よりもアンサンブル学習の方が内部褐変発生を正しく「褐変」と判定する感度が高く、誤判別率は低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究では、選果機で取得した可視-近赤外分光スペクトルを入力、1ヶ月後の内部褐変発生の有無を出力とするモデルを用いている。モデルは一種の関数であり、スペクトルを取得した各波長条件に対する重み係数という形で記述できるため、全国に導入されている同型選果機のコンピューターに容易に移設できる。
  • アンサンブル学習の方が高精度だが、PLS判別分析は計算量が少なくモデルの解釈が容易なため、現場で求められる判定精度や装置のスペックに応じて最適なモデルを選択する必要がある。
  • 今回の成果は2015年および2016年に青森県で収穫された「ふじ」のデータに基づいている。そのため、異なる年次、産地、品種にも適用可能かどうかは、追加のデータを収集して検証する必要がある。

具体的データ

図1 内部褐変発生予測検討法の概要,図2 メタモデルの概要,表1 メタモデルにより正しく判定された試料の個数

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(非破壊)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:蔦瑞樹、池羽田晶文、葛西智(青森県産技セ)、和田有史(立命館大)、松原和也(立命館大)、吉村正俊(東大院)
  • 発表論文等:蔦ら(2019)日食工誌、20(1):7-14