リアルタイムPCRによるヒメアカカツオブシムシおよびカツオブシムシ類の同定法
要約
カツオブシムシのミトコンドリアDNAの塩基配列から設計されたプライマー/プローブセットを用いて、リアルタイムPCR法によりヒメアカカツオブシムシおよびカツオブシムシ類を同定する。本手法は、迅速かつ正確、高い特異性を有し、ヒメアカカツオブシムシを効率的に同定できる。
- キーワード:リアルタイムPCR、定性分析、ヒメアカカツオブシムシ、侵入害虫、食品の異物混入
- 担当:食品研究部門・食品安全領域・食品害虫ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8014
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ヒメアカカツオブシムシは、繁殖力が高い上に、40°Cの高温条件や2%の低湿度といった過酷な条件下でも十分に生育できる。また、幼虫期に低温、高密度条件などにさらされると一種の休眠状態に入る。この「休眠幼虫」はくん蒸処理に対する高い抵抗性を有するだけでなく、他の貯穀害虫に比べて低温条件にも極めて強く、生育に適した条件が整うまで数年間も耐えることもできる。このため、数多くの貯穀害虫のうち「国際自然保護連合」の「種の保全委員会」が選定した「世界の侵略的外来種ワースト100」において唯一選定された種である。我が国において、本種は輸入穀類や豆類を介して持ち込まれ、1923年には鳥取の米倉庫、1960年代には日本各地の麦芽製造所、醸造所で発見された事例がある。これらは既に根絶されており、その後は日本に定着したという情報はないが、植物防疫所による輸入検査では、穀類、豆類から毎年のように発見されており、今後も侵入、定着を監視してゆく必要がある。そこで本研究では、ヒメアカカツオブシムシおよびカツオブシムシ類を同定するためのリアルタイムPCR法を開発する。
成果の内容・特徴
- 3種のカツオブシムシ(ヒメアカカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ)のミトコンドリア(mt)DNAを次世代シーケンサーで解読することで、ヒメアカカツオブシムシ検出用を2種類(IおよびII)、カツオブシムシ類検出用1種類の配列が得られる。解読した配列情報はmtDNA全体の約70%である。解読した3種類のカツオブシムシのmtDNA領域の概略図および設計したプライマー/プローブセットの位置を図1に示す。
- 主要貯穀害虫を用いた特異性確認試験では、開発したヒメアカカツオブシムシ検出用I、IIおよびカツオブシムシ類検出用のプライマー/プローブセットは、それぞれの標的に対して高い特異性を示す(図2)。
- 単一試験室での検出下限値(LOD)の決定では、ヒメアカカツオブシムシ検出用I、IIおよびカツオブシムシ類検出用のプライマー/プローブセットについて、それぞれトータルDNAを5、5、50pg/10μL反応液の条件で用いた場合に、いずれも検出率100%を示す。このことから、LODは「偽陰性率が5%以下である最低濃度」とされる国際基準を満たしている。
- 1試料の検査に必要な時間はDNA抽出工程を含め約90分間程度である。
成果の活用面・留意点
- 本分析法のプライマー/プローブセットは、モニタリング調査用のトラップ等に大量捕獲されたヒメアカカツオブシムシの迅速かつ正確な同定を可能とする。
- 害虫駆除業者、検査機関、試薬メーカー等での活用が期待される。
- カツオブシムシ類は現在までに1,800を超える種が見つかっているが、これらのうち貯穀害虫であるものはごく一部である。本研究では、カツオブシムシ類検出用のプライマー/プローブセットによる特異性試験の際に、貯穀害虫として我が国において主要かつ入手可能な4種のカツオブシムシ(ヒメアカカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ、アカマダラカツオブシムシ)についてのみ明瞭な増幅曲線の確認がなされている。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
- 研究期間:2014~2018年度
- 研究担当者:古井聡、宮ノ下明大、今村太郎、峯岸恭孝((株)ニッポンジーン)、國谷亮太((株)ニッポンジーン)
- 発表論文等:
- Furui S. et al. (2019) Appl. Entomol. Zool. 54(1):101-107
- 古井ら「食品害虫検出用オリゴヌクレオチド」特許第6600831号(令和元年10月18日)