モデル舌を用いたやわらかい食品の物性評価法

要約

新しい介護食品(スマイルケア食)のJAS区分にある「舌でつぶせる食品」を評価する新規な方法を提案する。人の舌に近い力学特性をもつ透明な材料で作製した人工舌(モデル舌)を力学測定装置に組み込み、やわらかい食品の圧縮試験を行う。舌で容易につぶせる食品か否かを判定できる。

  • キーワード:介護食品、JAS、テクスチャー測定、人工舌、モデル舌、舌でつぶせる食品
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・食品物理機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国は高齢化が世界の最先端で進行し、かむことや飲み込むことに問題がある人向けの食品の販売額は、2010年の88億円が2020年には約3倍となる見込みである。農水省でも、スマイルケア食と愛称をつけた新しい介護食品の普及に取り組んでおり、かむことに問題がある方向けの食品についての日本農林規格(JAS)が2016年に策定された。このJASでは、「容易にかめる」、「歯ぐきでつぶせる」、「舌でつぶせる」、「かまなくてよい」の4区分があるが、機器測定による具体的な数値基準は未だ示されていない。
そこで、本研究では「舌でつぶせる食品」を評価するために、人間の舌のようなやわらかい機械を用いた新規な物性測定法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 人間の舌は、力を入れた場合に弛緩時の数倍から10倍かたくなる。食物をつぶす時の舌の状態に近い力学特性をもったモデル舌を作製する。
  • 人の舌はつぶされる一口大の食物よりも大きい。やわらかい舌が食物を包み込んでも食品を観察することが可能なように、モデル舌は透明な材料、例えばウレタンゲル、で作る。
  • 食品試料として、健常成人が舌で容易につぶせる、あるいはやや困難となるような破壊荷重、破壊変形をもつゲルを調製する。
  • モデル舌と食品の形状は、人間の舌と食物の大きさ関係に近いものとする。モデル舌は50mm角で厚さ10mm、食品ゲルは直径20mm高さ10mmの円柱とする(図1)。
  • モデル舌を一般的な力学測定機器であるテクスチャーアナライザーのガラス製ステージに載せ、その上に食品ゲルを置いて、金属製の平板で等速圧縮する(図1)。圧縮試験中に、常法により力学特性を測定するとともに、モデル舌と食品の変形を側方および下方からビデオで観察する。
  • 一般のかたい材料でできた試験機を用いると、舌でつぶせるような食品は全て壊れるが、やわらかいモデル舌を用いると、破壊されるまでの距離が大きくなり、壊れない場合が生じる。食品の破壊荷重よりも破壊変形が、舌でつぶせるか否かを決定づける因子であることが示唆される。
  • 健常成人を想定したかたさのモデル舌で壊れる食品ゲル(図2)が、筋力の弱い者を想定したやわらかいモデル舌では壊れない(図3)。食品が壊されないままモデル舌に沈み込み、周りを囲まれ、モデル舌の広い表面に金属平板が接触し、それ以上押せない状態になることが示されている。
  • 透明なウレタンゲルで作製したモデル舌は、常温で1年以上力学特性が安定しており、繰り返し試験が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 測定法を最適化し、標準化すれば、新しい介護食品(スマイルケア食)のうち「舌でつぶせる」区分の基準に応用できると期待される。
  • 舌でつぶせるか否かを定性的に知るだけなら、力学測定機器を用いずに、モデル舌とかたい平板との間に置いた食品を手で押すという簡易な評価もできるであろう。在宅あるいは福祉施設での利用が想定される。
  • 近年、簡易な舌圧計が普及し、舌圧は高齢者、とくに介護食品を必要とする者では低いことが報告されている。個人の舌圧に合わせたモデル舌を用いれば、その人の舌でつぶせる食品が評価できる可能性がある。

具体的データ

図1 モデル舌を用いたやわらかい食品の試験,図2 健常成人のモデル舌を用いた食品ゲルの圧縮破壊過程,図3 舌の筋力の弱い者を想定したやわらかいモデル舌を用いた食品ゲルの圧縮過程

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費基盤研究(B))
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    神山かおる、石原清香(三栄源エフ・エフ・アイ(株))、中馬誠(三栄源エフ・エフ・アイ(株))、船見孝博(三栄源エフ・エフ・アイ(株))
  • 発表論文等: