麹菌におけるグルタチオン合成遺伝子の同定と酸化ストレス防御機能
要約
麹菌Aspergillus oryzaeに存在しているγ-glutamylcysteine synthetase オルソログ遺伝子は麹菌のグルタチオン合成経路に関与している遺伝子であり、グルタチオンは麹菌においても酸化ストレスに対する防御機能を示す。
- キーワード:Aspergillus oryzae、γ-glutamylcysteine synthetase、グルタチオン、酸化ストレス
- 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・食品醸造微生物ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8013
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
麹菌Aspergillus oryzae は、日本で古くから醸造食品に利用されており、日本醸造協会により国菌としての認定も受けている糸状菌である。また、A. oryzaeは食品分野だけでなく医薬品の製造工程等の多岐にわたる産業分野において利用されている。環境から受けるストレスは菌体の生育に影響を及ぼすため、耐性のある菌株が求められている。
グルタチオンは多くの生物が保有するトリペプチドであり、様々なストレス耐性に関与している。しかし、A. oryzaeのゲノム上に、グルタチオン代謝に関連すると思われる酵素の遺伝子のオルソログ(相同分子種)が存在しているが、詳細は明らかになっていない。本研究ではA. oryzaeにおけるグルタチオンのストレスに対する影響、およびその合成経路の解明を目指す。
成果の内容・特徴
- グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンの3種のアミノ酸によって合成される。麹菌の遺伝子にはグルタチオン合成経路に関連すると思われる酵素の遺伝子のオルソログが存在している。(図1)
- グルタチオン合成に重要なγ-glutamylcysteine synthetaseが欠損している株A. oryzae ΔligD ΔpyrGに、培地中のチアミン濃度に反応するように改変したγ-glutamylcysteine synthetase遺伝子を導入し、チアミン添加によって発現を抑制可能な株を取得した。カビの培養で繁用されるツァペック・ドックス培地により同株を培養すると、細胞内グルタチオン濃度が培地中に添加したチアミンに依存して低下する。このことにより、当該遺伝子は麹菌においてグルタチオン生産に重要な酵素であると考えられる。(図2)
- 過酸化水素を添加して酸化ストレス下において培養を行うと、細胞内グルタチオン濃度が低い遺伝子改変株で顕著にチアミン添加による成育の阻害が見られる。よって、麹菌においてもグルタチオンは酸化ストレス耐性に関与していると考えられる。(図3)
成果の活用面・留意点
- 本酵素はA. oryzaeにおいてグルタチオン合成に重要な酵素であると考えられることから、グルタチオン生産の強化に有用だと予想される。
- ストレス耐性には他のグルタチオン代謝関連酵素も関与していることが考えられるので 更なる視点からの検証が必要である。
- グルタチオンは呈味性に関与しているという報告があり、麹菌におけるグルタチオンの蓄積条件の解明は、コクのある味わいの深い発酵食品のような、新たな醸造食品の開発などにつながる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2017~2018年度
- 研究担当者:服部領太、鈴木聡、楠本憲一
- 発表論文等:Hattori R. et al. (2018) JARQ. 52(4), 301-305.