刺激性AGEs測定キット

要約

刺激性AGEsを認識するsRAGEへの結合能により、加齢性疾患発症の危険因子である刺激性AGEsを判別・定量する手法である。多様な構造の刺激性AGEsを広範に検出可能であり、食生活の健康への影響評価、刺激性AGEsの生成を抑制する食品開発、及び食品加工法の開発に有効である。

  • キーワード:終末糖化産物、AGEs、sRAGE、加齢性疾患危険因子、遺伝子組換えカイコ
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・分子生物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8013
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

終末糖化産物(Advanced glycation end products : AGEs) は、食品の加工過程で生じ、食味向上に重要である一方、生体内でも生成し、一部は生体に機能不全を誘導し加齢性疾患の引き金となる。しかし、AGEsの構造は多様で、加齢性疾患の危険因子であるAGEs(刺激性AGEs)を判別・検出する手法は確立されておらず、刺激性AGEs検出手法の確立、及び食品中の刺激性AGEsが生体に与える影響を解析する技術の開発が求められている。
そこで、本研究では、生体内で刺激性AGEsを認識する受容体(Receptor for AGEs: RAGE)の機能に着目し、RAGEのAGEs認識領域(sRAGE)の遺伝子組換えカイコによる安定供給系を確立し、刺激性AGEsの判別・定量を可能とするキットを開発する。

成果の内容・特徴

  • 遺伝子組換えカイコ発現系により、キットの中核をなす分子であるビオチン化sRAGEの安定供給が可能となる。
  • sRAGEは、カイコ型糖鎖の付加(図1)により分子の安定性が著しく向上し、これにより、キットの安定した供給・流通が可能となる。
  • sRAGEは、カイコ体内でC末側の一箇所がビオチン化された分子として生産されるため、RAGEに対する抗体を使用した場合よりも安価なストレプトアビジン標識peroxidase(以下、HRP-SA)を利用した発色による測定が可能である(図2)。
  • 本キットは、捕捉用AGEs(glucose糖化BSA:G-BSA)固相化プレート(8連タイプ)、ビオチン化sRAGE、HRP-SA、発色試薬(3,3',5,5'-Tetramethylbenzidine: TMB)、反応停止液(塩酸)、及び、検量線作成用の標準(glyceraldehyde 糖化BSA:glycer-BSA)から構成され、2020年4月以降にベータ版(試用版)受注生産を開始予定である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ベータ版として販売されるキットは、冷蔵保存で半年以上安定であることが確認されているが、それ以上の安定性を確認するため、さらなるデータを蓄積しているところである。
  • 研究目的でのヒト、及び、実験動物の血清中刺激性AGEsの定量に活用可能であるが、細胞、組織抽出液を対象とした測定においては、使用する抽出液などの検討が必要である。
  • 食品、農作物中のAGEs測定に関しては、対象とする食品、農作物毎に、前処理条件などの検討が必要であり、知見の蓄積を検討中である。
  • 販売したベータ版に関して、不具合情報の収集を進め、測定プロトコールの改良、測定対象別のデータ集の整備などを進め、多様な分野で使用されるキットとしての普及を目指す。

具体的データ

図1 遺伝子組換えカイコ由来のsRAGE,図2 キットの測定原理,図3 キットベータ版受注生産開始の案内

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(蚕業革命)、競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:町田幸子、小堀俊郎、倉持みゆき、瀬筒秀樹、立松謙一郎
  • 発表論文等:
    • 町田ら「遺伝子組換えカイコにより生産したビオチン化酸化LDL受容体・終末糖化産物受容体」特許第6617110号、2019年11月15日
    • 町田ら特許出願(公開前)2019年2月21日
    • Ganesh et al. (2018)Anal Sci. 35, 237-240
    • Kumano et al. (2017) Scientific Reports 7, 356 doi:10.1038/s41598-017-00420-4