廃糖蜜を用いたセルロース分解酵素生産システム

要約

可溶性炭素源を連続供給しつつ酵素生産糸状菌の培養を行うセルロース分解酵素製造システムにおいて、原料廃糖蜜のスクロース分解酵素(インベルターゼ)処理により、酵素生産糸状菌の資化速度が向上し、効率的な糖化酵素生産が可能になる。

  • キーワード:セルロース分解酵素、廃糖蜜、インベルターゼ、糸状菌、酵素生産
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・生物資源変換ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8013
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

セルロース及びヘミセルロースを主成分とする植物繊維質資源からの有価物製造プロセスの構築・実用化にあたり、これらの多糖に対する分解酵素の効率的生産・安定供給体制の整備が重要な課題の一つとなっている。この課題を解決するため、これまでにグルコース等の可溶性糖質混合液を連続的に添加しつつ培養を行う可溶性炭素源連続フィード培養技術を構築し、セルロース及びヘミセルロースの分解酵素群の組成制御や高効率での長期生産を可能としている。一方で、更なる酵素生産効率化のためには、安価な糖質原料からの酵素製造が求められている。そこで本研究では、可溶性炭素源連続フィード培養技術を軸として、安価な糖質資源である廃糖蜜を主原料とする酵素生産システムを構築する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、インベルターゼ(スクロース分解酵素)処理を施した廃糖蜜を連続供給しつつ酵素生産糸状菌の培養を行うことで、セルロース分解酵素を効率的に製造するプロセスである(図1)。酵素生産菌として用いるTrichoderma reesei M2-1株は廃糖蜜中の主要糖成分であるスクロースを利用できない一方で、インベルターゼ処理によりスクロースをグルコース・フルクトースに変換し供給糖源とすることで、糖の資化速度が向上する(図2)。これにより効率的な酵素生産が可能となる。
  • 100g/Lスクロース及び20g/Lセロビオース(セルロース分解物:セルラーゼの発現を誘導)を含む糖液をインベルターゼ処理し、これを45-50g/日の速度で連続供給しつつ、T. reesei M2-1株を1週間培養した場合、培養液中タンパク質濃度及びセルラーゼ活性はそれぞれ約40g/L、2.5U/mLに達する。また、糖濃度100g/Lに調整した廃糖蜜(塩水港精糖株式会社より提供)及び20g/Lセロビオースを含む糖液をインベルターゼ処理し、これを供給糖液として培養を行う場合、培養液中タンパク質濃度及びセルラーゼ活性はそれぞれ約45g/L、約3U/mLである(図3)。
  • 上記培養における投入炭素源あたりのセルロース分解酵素生産効率はそれぞれ270-280 FPU/g-炭素源、280-300 FPU/g-炭素源であり、100g/Lグルコース+20g/Lセロビオースを供給糖源とする際の値とほぼ同等となる。また、3の条件での生産酵素中のセルロース分解酵素活性は他とほぼ同等である一方、ヘミセルロース分解酵素活性は若干高い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 廃糖蜜価格を5-40円/kg-糖と想定した場合、グルコースに対して価格優位性を示し、廃糖蜜を主原料とする酵素の効率的生産が可能となることにより、酵素製造コストの低減に繋がる。
  • セルラーゼ発現の誘導物質(セロビオース等)はセルロースの酵素糖化液を用い、インベルターゼは固定化酵素として長期使用することで、さらなる酵素製造の効率化が期待できる。
  • 廃糖蜜中には酵素生産菌に対する生育阻害物質等が含まれる可能性が考えられる。特に半連続培養等による酵素の長期連続生産の際には、阻害の影響を回避できる培養条件や原料廃糖蜜の前処理、阻害物質耐性菌株の取得・利用等に関して検討し、必要に応じて工程の改良が必要である。

具体的データ

図1 廃糖蜜を原料とする連続フィード培養による酵素生産工程概略図,図2 スクロースまたはそのインベルターゼ処理物を原料とした際の各糖質の代謝特性,図3 可溶性糖源連続フィード培養によるT. reesei由来セルロース分解酵素の生産性,表1 可溶性糖源連続フィード培養によるTrichoderma reesei由来酵素生産

その他

  • 予算区分:交付金、SIPリグニン
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:池正和、山岸賢治、徳安健
  • 発表論文等:
    • Ike M. et al. (2018) J. Appl. Glycosci. 65:51-56