溶液X線散乱法による熱処理食品タンパク質の溶存状態の特性解析

要約

熱処理後の食品タンパク質の可溶性分子をクロマトグラフィー分離と同時に溶液X線散乱測定を行い、分画溶質分子のサイズ、分子量および分子鎖構造が同時に連続的に解析できる。タンパク質などの高分子成分を含む卵、豆や乳製品などで新規な物性を持つ食品の開発が可能である。

  • キーワード:食品タンパク質、熱処理、溶存状態、クロマトグラフィー、溶液X線散乱測定
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・先端食品加工技術ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豊かな食生活を実現するため食品の付加価値を高める加工技術を開発するためには、加工による食品成分の構造変化等を科学的根拠のある方法により解析、定量する必要がある。特にヨーグルトなどの乳製品のような消費が活発な食品については新たな物性を持つ商品の開発が求められている。本研究では散乱法などを利用した食品関連物質の溶液物性の解明を通じて食品関連物質の溶存状態の知見を蓄積し、新規加工食品開発のブレイクスルーを目指す。本研究のポイントは、モデル食品タンパク質である卵白アルブミンの熱処理後の試料の分画溶存分子のサイズ、分子量および分子鎖構造(質量フラクタル次元および表面フラクタル次元)を同時に数値化できることである。溶液中の食品高分子成分の溶存状態の数値化により、熱、圧力あるいは電気的処理などによる高分子成分の動態把握が可能となり、新規な物性を持つ加工食品開発に応用できることが期待される。

成果の内容・特徴

  • クロマトグラフィー溶液X線散乱法の測定システムは、HPLC測定機器と放射光溶液X線散乱測定装置によって構成される(図1)。熱処理食品タンパク質に本手法を利用することは、これまで全くなかった新たな適用事例である。
  • X線散乱データの解析から、熱処理後の分画可溶性分子の回転半径、分子量および分子鎖構造(質量フラクタル次元および表面フラクタル次元)を同時に簡単に数値化できる(図2)。
  • 質量フラクタル次元(Dm)と表面フラクタル次元(Ds)は、それぞれ、溶存分子の大まかな形状と分子の表面のなめらかさの指標であり、食品の固さや粘りなどの物理的性質との相関を解明することに利用することが可能である。
  • 分画可溶性分子の回転半径、分子量および分子鎖構造(質量フラクタル次元および表面フラクタル次元)は、ヨーグルトや豆乳などのタンパク質を含む食品を加工する際の熱や高圧、発酵処理条件の違いによる主要な高分子成分の溶存分子動態などを評価することが可能である。これにより本手法は新たな食感を持つ卵・乳製品等開発のツールとして利用可能である。

成果の活用面・留意点

  • 安定に分散している条件で溶液X線散乱測定装置の検出可能範囲であれば食品中の高分子成分の特性解析が可能である。
  • 本測定システムによる食品タンパク質の構造解析を通して、タンパク質などの高分子成分を含む卵、豆や乳などを加工する際の基礎物性解析ができることから、これまで市場になかった新たな物性(粘りやかたさ)を持つ食品の開発ができるようになる。乳製品、大豆食品さらには機能性高分子成分の特性解析など広い分野での利用が期待できる。
  • 溶液X線散乱測定は高エネルギー加速器研究機構や高輝度光科学研究センターの放射光施設を利用する。

具体的データ

図1 測定システムの構成,図2 熱処理卵白アルブミンのクロマトグラムと溶出分子のサイズと分子量およびフラクタル次元

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:渡邊康
  • 発表論文等:Watanabe Y. (2019) J. Chromatogr. A 1603:190-198