低温増殖性食中毒菌(Listeria monocytogenes)の高圧損傷及び冷蔵保存中の回復挙動

要約

リステリア属菌は、高圧加工食品の低温保存時で重要な食中毒菌である。この高圧損傷菌は、富栄養条件では温度によらず数日内に回復し、貧栄養条件では0~10°Cで死滅、15°Cで回復する。高圧損傷菌の回復挙動は、栄養条件、保存温度により異なり、加工流通には注意が必要である。

  • キーワード:高圧加工、リステリア、損傷菌、回復、栄養
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・食品製造工学ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015(食品加工流通研究領域長)
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品高圧加工では、損傷菌を考慮した食中毒菌制御が重要である。また、一般的な処理圧力(600MPa)に満たない圧力(400~500MPa)で処理すると、高圧損傷菌が再現性良く得られる。本研究では、代表的な低温増殖性食中毒菌としてリステリア属菌のListeria monocytogenesを500MPaで処理して損傷させ、富栄養/貧栄養条件の液状食品のモデル系として、TSB(trypticase soy broth)/熱死菌を懸濁したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にそれぞれ懸濁し、0~15°Cでの保存における回復挙動を解明する。

成果の内容・特徴

  • Listeria monocytogenes(初発菌数:9 log10CFU/ml)の高圧処理直後(0日目データ)には、総菌数2 log10CFU/mlの損傷菌及び健常菌が非選択培地で検出される(図1A&1B)。一方、健常菌のみを検出する選択培地では不検出(図1C&1D)となる。つまり、500MPaでの高圧処理で、損傷菌のみを調製した。
  • 低温保存の影響を調べるため、この損傷菌懸濁液を、TSB(富栄養)また8.5 log10CFU/mlの熱死菌を含むPBS(貧栄養)に懸濁し、0、5、10、15°Cで保存した。
  • 富栄養系では、低温保存中に、健常菌+損傷菌(図1A)の中でも健常菌(図1C)の菌数が急激に増える。これは、処理直後の損傷菌が、数日間以内に健常菌に回復し、最終的には初発菌数程度にまで増えたと考えられる。
  • 熱死菌を含むPBS(貧栄養)系での低温保存では、健常菌+損傷菌(図1B)の総菌数は一旦上昇し、15°C未満では最終的に非検出となる。一方、15°C保存では、貧栄養であるにも拘わらず、健常菌が顕著に増加する(図1D)
  • 比較のために、富栄養系/貧栄養系に健常菌を接種し、高圧処理せずに保存すると、各々10°C・15°C/15°Cで増殖が見られ、特に貧栄養系では、15°Cで共食い増殖が見られる(図2)。よって、高圧損傷菌を貧栄養系で保存した際に見られる菌数の増加は、高圧損傷菌が高圧死滅菌を共食いして増殖した可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • モデル実験系での結果として、液状食品での高圧損傷菌挙動を予測する上では参考となる。しかしながら、固形・半固形のモデル実験系・食品での挙動は異なる可能性がある。
  • Listeria monocytogenesは低温増殖性食中毒菌であるため、低温増殖性のないその他食中毒菌の挙動とは異なる点に注意が必要である。
  • 高圧加工食品は、600MPaで処理されるのが一般的であるが、不十分な圧力で処理すると、損傷菌リスクが無視できないことを示した。高圧加工ジュース等の製品化に際しては、栄養条件を踏まえつつ、「600MPaで確実に処理する」、「10°C以下を維持する」等の手順を徹底するための教育・技術資料として活用できる。

具体的データ

図1 高圧処理(500 MPa)したL. monocytogenes の富栄養(A & C)及び貧栄養(B & D)条件での低温での回復挙動,図2 富栄養(液体培地)及び貧栄養(熱死滅菌のリン酸緩衝生理食塩水懸濁液)条件におけるL. monocytogenes の健常菌増殖挙動

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(食安動衛)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:中浦嘉子、森松和也(愛媛大)、稲岡隆史、山本和貴
  • 発表論文等:
    • Nakaura Y, et al. (2019) High Pressure Res. 39:324-333.