穀物貯蔵低温倉庫におけるフェロモントラップによるコクゾウムシのモニタリングシステム

要約

穀物貯蔵低温倉庫において、30ヶ月にわたりコクゾウムシ用フェロモントラップによる調査を行い、その有効性とコクゾウムシ捕獲数の変動を確認する。フェロモントラップは粘着トラップと比較して捕獲数の変動の傾向は変わらないが、捕獲数は多く、個体数のモニタリングに有用である。

  • キーワード:穀物貯蔵倉庫、コクゾウムシ、貯蔵食品害虫、モニタリング、フェロモントラップ
  • 担当:食品研究部門・食品安全研究領域・食品害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8014
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

低温貯蔵の普及は貯蔵食品害虫による害を低減させることに貢献したが、現在においても貯蔵食品害虫の発生とそれによる被害が報告されている。玄米貯蔵施設に発生する貯蔵食品害虫で最も頻度が高いものはコクゾウムシである。
害虫の発生量と時期を把握し、害虫防除の時期を決定するためにはトラップなどを用いてその発生をモニタリングする必要がある。コクゾウムシのモニタリングには現在のところ粘着トラップが主として使用されている。一方、集合フェロモンを用いたフェロモントラップが2015年に発売されたが、現場での捕獲効果は評価されておらず、またこれを用いた周年モニタリングも実施されていなかった。そこで、関東平野に位置する5ヶ所の玄米等穀物用低温貯蔵倉庫の本庫と下屋において、このフェロモントラップと徘徊性昆虫用の粘着トラップを設置し、30ヶ月間にわたって月1回トラップを交換してコクゾウムシ捕獲数を調査することにより、フェロモントラップの有効性とトラップへのコクゾウムシの捕獲数の年間を通した変動を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究は穀物貯蔵倉庫におけるコクゾウムシモニタリング手法としてのフェロモントラップの有用性を初めて明らかにするものである。
  • フェロモントラップと粘着トラップの比較では、フェロモントラップの方で多く捕獲され、粘着トラップでは捕獲できない時期においてもフェロモントラップで捕獲される(図1)。
  • フェロモントラップと粘着トラップでは捕獲数の変動の傾向が一致している(図1)。
  • コクゾウムシが倉庫と越冬場所の間を移動すると考えられる春季(4、5月頃)と秋季(11月頃)に捕獲のピークが観察される(図1)。
  • フェロモントラップでは最大で427頭が捕獲され、粘着トラップよりも捕獲数が大きい(表1)。
  • 調査開始直後と比較して、倉庫管理者の自主的な取り組みにより倉庫の管理状況が改善しつつあるが、それがコクゾウムシの捕獲数の減少として反映されている倉庫(図1の倉庫丸1および他1ヵ所の倉庫)と明確ではない倉庫(図1の倉庫丸2および他2ヵ所の倉庫)がある。

成果の活用面・留意点

  • 本成果を今後作成する貯蔵食品害虫管理マニュアルへ反映させて公開し、害虫駆除業者などが利用できるようにし、また、行政と連携してJAなどへの普及を図る。
  • 倉庫によって捕獲パターンに違いがあることに留意する。

具体的データ

図1 トラップ当たりのコクゾウムシ成虫捕獲数(それぞれ2個の平均)の変動,表1 1個のトラップに捕獲されたコクゾウムシ成虫数の年ごとの最大値とコクゾウムシ成虫の1トラップ当たり平均捕獲数

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:今村太郎
  • 発表論文等:
    • 今村ら(2020)都市有害生物管理、10:1-7