デジタルPCRを用いた定量的品種判別法

要約

デジタルPCRを利用して、農産物の品種を定量的に判別する。従来は困難であった品種の混合割合の定量や、意図せざる混入か否かの判定に有効である。

  • キーワード:デジタルPCR、品種判別、定量、DNAマーカー、ダイズ
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・信頼性評価ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8014
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農産物の品種は、消費者が商品選択を行う際の重要な指標の一つであり、これまでに多くの農産物において品種判別法が開発されている。それらの大部分は定性分析法であり、品種の混合割合を明らかにする、あるいは意図せざる混入(「農産物検査に関する基本要領」別紙5では5%まで)か否かを区別するための定量分析法が求められている。
そこで、本研究では簡便かつ高精度なデジタルPCRを活用することにより、農産物の実用的な定量的品種判別法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本法では、対象品種にのみ存在する挿入・欠失(InDel)マーカーを対象とし、InDelの有無を検出できる2色(VICおよびFAM)の蛍光で標識した加水分解プローブを用いて、対象品種であるか否かを判別する原理を用いる(図1)。対象品種のDNAが含まれる場合、VICの蛍光が検出され、対象外の品種の場合はFAMが検出される。今回はモデルとして、豆腐用途のダイズ2品種(「フクユタカ」「エンレイ」)を対象とした結果を紹介する。
  • 本法で用いたデジタルPCRでは、試料から抽出したDNAを1つのウェルに1分子程度含まれるように配分し、各ウェルで1.の分析を行う。50%混合試料の分析例(検出される蛍光強度の散布図)を図2に示す。得られた蛍光値によって各ウェルは、検出対象品種のDNAが含まれるVIC蛍光のみのグループ(赤)、検出対象以外の品種のDNAが含まれるFAM蛍光のみのグループ(青)、検出対象と対象以外の品種のDNAが共存している両者の蛍光が検出されるグループ(緑)、どちらのDNAも含まれない0付近のグループ(黄)の4つに区分される。得られたウェル数を統計処理することによって、元のDNAに含まれていた品種割合を推定する。
  • デジタルPCRによるダイズ2品種の混合割合の定量結果から、(1)品種混合試料の測定値は期待値(重量比)と非常に相関が高い(図3)、(2)5%前後の少量混合についても,期待値に対して±20%の範囲内の測定値が得られる(表1)、(3)加工品(豆腐)であっても、原料ダイズと同等の結果が得られることが明らかとなり、デジタルPCRによる簡便かつ高精度な定量的品種判別の可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本法ではモデルとしてダイズのInDelマーカーを利用しているが、2種類の加水分解プローブを設計可能であれば、一塩基多型(SNP)マーカーも利用することができる。またダイズ以外の農産物にも適応することができる。
  • 本法で用いたデジタルPCR装置はチップ方式であるが、ドロップレット方式であっても原理上適応できる。
  • 農産物や品種の違い、栽培・保管条件の違い、食品の場合には加工度によるDNA分解の程度によって、農産物の重量当たりに含まれる対象DNA量は異なる場合が予想される。分析に当たっては、これらを十分考慮する必要がある。

具体的データ

図1 加水分解プローブを用いたIndelの検出,図2 50%混合試料の分析例,図3 デジタルPCRによる品種混合割合の定量結果,表3 低濃度混合試料の定量結果

その他