野生動物肉の放射性Csの低減効果は調理方法によって異なる

要約

ニホンジカとイノシシ肉の放射性Cs量は、茹で調理、焼き調理および蒸し調理により減少するが、低減効果は焼き調理より茹で調理および蒸し調理のほうが高い。放射性Cs濃度は、焼き調理で調理前の1.2-1.4倍に上昇するが、茹で調理および蒸し調理では低下する。

  • キーワード:放射性Cs、調理、野生動物肉、ニホンジカ、イノシシ
  • 担当:食品研究部門・食品安全研究領域・食品安全性解析ユニット
  • 代表連絡先:電話 024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所事故以降、国内では食品中の放射性Cs濃度について検査を実施し、食品衛生法で規定された基準値を満たす農産物や食品のみが流通する体制となっているが、正確なリスク評価・管理のためには、調理における放射性Csの動態も把握する必要がある。近年、野生動物の捕獲数が増加し、食用としての利活用の増加が見込まれていることから、野生のニホンジカとイノシシの肉を用いて、焼き調理、茹で調理、蒸し調理による放射性Csの濃度や量の変動を明らかにし、調理方法の違いによる低減効果を評価する。

成果の内容・特徴

  • ニホンジカとイノシシの肉に含まれる放射性Cs量は、調理(焼き調理、茹で調理、蒸し調理)により低下する(図1)。これは、放射性Csが肉汁や茹で湯に移行し、肉から除去されるためである。放射性Csの残存割合は、焼き調理において茹で調理および蒸し調理より高い(表1)。
  • 調理肉の放射性Cs濃度は、焼き調理では上昇するが、茹で調理と蒸し調理では低下する。調理肉の加工係数に基づくと、焼き調理では1.2-1.4倍、茹で調理と蒸し調理では0.7-1.0倍となる(表2)。
  • 調理肉の質量は、すべての調理方法で調理前よりも低下する(表3)。調理後の肉の質量低下は、放射性Cs濃度上昇の要因となる。焼き調理による調理肉の放射性Cs濃度上昇は、調理後の質量低下による濃度上昇効果が、焼き調理による放射性Cs除去による濃度低下効果を上回ったためであると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 調理に用いた肉は厚さ1cm、50から80gの1枚肉を用いている。
  • 肉の形状、調理時間、茹で湯量、蒸し水量が異なると、加工係数や残存割合の数値が完全に一致しない可能性がある。
  • すべての調理方法で放射性Cs量は低下するが、より高い低減効果を期待する場合は焼き調理よりも、茹で調理や蒸し調理を選択する。
  • 焼き調理の場合、調理後に放射性Cs濃度が上昇することに留意する。
  • 加工係数を用いると、調理前の肉の放射性Cs濃度から、調理後の肉の放射性Cs濃度が算出できる。特に焼き調理の場合、調理後に放射性Cs濃度が上昇するため、調理前の肉の放射性Cs濃度に焼き調理の加工係数をかけることにより、焼き調理後の肉の放射性Cs濃度上昇を推定することができる。

具体的データ

図1 野生動物肉の調理前後の放射性Cs量の変化,表1 野生動物肉の調理による放射性Csの残存割合,表2 野生動物肉の調理による放射性Csの加工係数,表3 野生動物肉の調理による肉の質量

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:八戸真弓、藤本竜輔、信濃卓郎(北海道大)、濱松潮香
  • 発表論文等:Hachinohe M. et al. (2020) J. Food Prot. 83(3):467-475
    https://doi.org/10.4315/0362-028X.JFP-19-409