甘味受容体応答および唾液分泌量測定による甘味料の評価方法

要約

ヒト甘味受容体を導入した培養細胞の甘味刺激に対する応答強度および唾液分泌量を測定し、甘味料の甘味の強さおよび閾値を推測・評価する方法である。訓練されたパネリストを必要としないため甘味料の性質の概要を効率的に把握することができ、甘味料の開発や評価に有効である。

  • キーワード:甘味料、甘味受容体、培養細胞、唾液分泌量、官能評価
  • 担当:食品研究部門・食品健康機能研究領域・感覚機能解析ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

甘味料の甘味度は、通常、一定濃度のショ糖溶液との甘味の強さの比較、あるいは閾値の比較によって決められている値である。官能評価を行って比較が行われているため、安全性が確認されている物質や素材しか評価の対象にならない。また、官能評価は専門のパネリストによって行われるため、人材の確保といった問題も存在する。そこで、本研究ではヒト甘味受容体を導入した培養細胞の甘味料に対する刺激応答、甘味刺激による唾液分泌量を官能評価による甘味度と比較して、甘味料の評価系としての妥当性を明らかにする。培養細胞を用いる方法は安全性の問題を、非侵襲で訓練を必要としない唾液分泌量測定法は人材の確保の問題を解決する方法とする。それぞれの方法の感度や適用できる素材の比較を行う。

成果の内容・特徴

  • 複数の甘味料について、甘味受容体を導入した培養細胞の応答、唾液分泌、官能評価の3種類の評価法を行い、グラフの形状を比較して甘味刺激に対する培養細胞の応答、唾液分泌が官能評価と相関するかを明らかにする。また、甘味料の特性をグラフの形状から推定する。
  • グラフは二次元とする(図1)。いずれのグラフも横軸は甘味料の濃度を対数で表示することで統一する。縦軸は、それぞれの評価法に沿ったものとする。甘味受容体を導入した培養細胞の応答は、カルシウムイメージング法によって測定し、測定値を相対蛍光単位で示したものを応答強度として縦軸で表す。唾液分泌は甘味刺激後1分間の分泌量と水刺激後1分間の分泌量を測定して、それらの比の値を縦軸とする。甘味の強さは対数を利用して強さを数値化する方法であるラベルドマグニチュードスケール(図2)により得られた数値を縦軸とする。
  • 高甘味度甘味料については、培養細胞の応答、唾液分泌量、官能評価による甘味の強さの3種類のグラフの形状を同じ式で近似して比較できる。近似式は指数関数y = y0+a(1-e-bx) である(r = 0.849-0.999)。係数a は甘味の強さ、bは閾値に相当する。
  • 官能評価のグラフから求められる係数aと、培養細胞の応答、唾液分泌量のグラフから求められる係数aの間に有意な相関は示されない。よって、培養細胞の応答および唾液分泌量の測定結果を用いて係数aから甘味の強さを数値化することは困難である。1つのグラフ内における甘味料ごとのa値を比較して、甘味度の強さを推量することはできる。
  • 係数bを比較することにより、甘味受容体を導入した培養細胞と官能評価および唾液分泌の感度の差は14.9~34.2倍であり、甘味受容体の系の方が敏感であることが示される。また、唾液分泌と官能評価の感度の差は0.7~1.8倍であり、大きな差はないことが示される(表)。よって、培養細胞の応答および唾液分泌量より、未知の甘味料の閾値を推定することが可能である。
  • 嗜好性に関しても、官能評価を行って甘味料の濃度を横軸に、ラインスケール法で評価した嗜好度の値を縦軸にして二次元のグラフを作成することが可能である。しかしながら、得られたグラフを培養細胞の応答、唾液分泌量、甘味の強さと同じ式で近似することはできない。

成果の活用面・留意点

  • 培養細胞では高濃度の刺激に対して浸透圧による非特異的な応答を示すため、応答に高濃度を必要とする糖や糖アルコール(ショ糖、果糖、キシリトールなど)を評価することができない。一方、唾液分泌や官能評価では、高濃度で苦味を呈する高甘味度甘味料(レバウディオシド等)について評価することができない。甘味料の特性に応じて評価する方法を選択する必要がある。
  • 培養細胞では複数の味覚受容体を1つの培養細胞に導入して評価することはできないため、1種類の味に対して1種類の培養細胞を用いて評価を行う。
  • 最終的な甘味度および閾値の評価は、官能評価で行う必要がある。
  • 甘味受容体を導入した培養細胞の応答測定に関する米グループの特許の有効期限は2022年までなので、本成果の産業利用については、現段階では特許料を支払う必要がある。

具体的データ

図1.複数の甘味料に対する唾液分泌(左上)、甘味の強さ(右上)、ヒト甘味受容体応答強度(左下)、嗜好度(右下)の濃度応答曲線,図2.味の強さの数値化に用いたラベルドマグニチュードスケール。,表.各手法間の感度の差

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:日下部裕子、河合崇行、山本万里、和田有史(食品研究部門、立命館大)
  • 発表論文等:Kusakabe Y. et al. (2021) Food Science & Nutrition, 9:719-727