ビフィズス菌抽出液を用いたラクト-N-ビオースIの効率的な合成

要約

ラクト-N-ビオースI(LNB)はビフィズス菌の選択的増殖因子であり、ヒトの腸内環境改善等の健康機能性が期待されるオリゴ糖である。本技術は、不要な成分を除去・抑制したビフィズス菌抽出液を用い、効率的に食品利用可能なLNB生産を可能とする。

  • キーワード:ヒトミルクオリゴ糖、ビフィズス菌、ラクト-N-ビオースI、LNB
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・酵素機能ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖は、乳児の腸内において感染防御の役割を担うビフィズス菌の寡占状態を形成するために重要であると考えられている。ラクト-N-ビオースI(LNB)は、そのヒトミルクオリゴ糖の主要な構成成分であり、食品産業において健康機能性オリゴ糖としての実用化が期待されている。これまでにビフィズス菌由来の4種の酵素(スクロースホスホリラーゼ(SP)、UDP-グルコース:ガラクトース1リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(GalT)、UDP-グルコース4-エピメラーゼ(GalE)、1,3-β-ガラクトシル-N-アセチルヘキソサミンホスホリラーゼ(GLNBP))を用いて、スクロースおよびN-アセチルグルコサミンを出発原料としたLNB合成技術を開発している(図1)。本研究ではこのLNB合成技術の食品産業での応用展開を念頭に、食品利用可能な原料のみを用いた新たなLNB合成法を開発するため、上記4種の酵素を含有するビフィズス菌抽出液を用いた合成技術の確立を目指している。ビフィズス菌抽出液に基質となるスクロースおよびN-アセチルグルコサミンを添加することでLNBが合成可能であることが知られているが、その生成量はごくわずかである。そこで、LNB合成関連酵素の活性を維持しつつ、LNB合成反応を妨害する酵素等の不要な成分を選択的に抑制・除去することで効率的にLNBを生産する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、①ビフィズス菌抽出液を膜ろ過することにより、低分子化合物を除去する、②パンクレアチン処理により、タンパク質を分解することでホスホグルコムターゼ(PGM)およびフラクトース6リン酸ホスホケトラーゼ(F6PPK)の酵素活性を1%以下にまで低下させる(図2)、③グルコアミラーゼ処理により、パンクレアチン処理では活性が残存するグリコーゲンホスホリラーゼ(GP)の基質となるマルトオリゴ糖を分解する、という3種の処理を組み合わせることで、LNB合成反応を妨害するグルコース1リン酸の消費、およびpH低下をもたらす酸の生成、を抑制している(図1)。
  • ビフィズス菌抽出液中の4種のLNB合成関連酵素は、上述の処理においても35%以上の活性を維持しており(図2)、スクロースおよびN-アセチルグルコサミンを基質として、効率的にLNBを合成することができる。具体的には、未処理のビフィズス菌抽出液では15 mMだった最大LNB生成濃度が、本技術の適用により256 mMにまで上昇し(図3)、17倍以上の生産性向上を実現している。

成果の活用面・留意点

  • 食品製造実績のある原料のみを用いてLNBを安定的かつ高効率で生産することができる。
  • 本技術はGLNBP活性を有するビフィズス菌に適用可能である。
  • 本技術の反応規模を拡大する場合、それに応じた菌体破砕方法および低分子化合物除去方法等を検討する必要がある。

具体的データ

図1 LNB合成反応および各種処理による妨害反応の抑制,図2 プロテアーゼ処理後の残存活性,図3 LNB生産性の比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:西本完、北岡本光、町田峻太郎、齋藤勝一、清水金忠(森永乳業株式会社)、橋倉那波(森永乳業株式会社)
  • 発表論文等:西本ら、特願2020-065664(2020年4月1日)