藁(わら)と畜糞燃焼灰の利用価値を同時に向上させるRURALプロセス

要約

藁と畜糞燃焼灰を混合・静置する「RURALプロセス」は、藁のアルカリ処理によってブドウ糖や乳酸などに転換しやすい材料に変えるとともに、畜糞燃焼灰のアルカリ度を下げて肥料用リン原料として利用しやすくすることで、耕畜連携を図りつつ地域資源循環の高度化に貢献する。

  • キーワード:藁、畜糞燃焼灰、繊維質糖化、リン資源、RURAL(Reciprocal Upgrading for Recycling of Ash and Lignocellulosics)プロセス
  • 担当:食品研究部門・食品生物機能開発研究領域・生物資源変換ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業・食品産業は、食料のみならず、副産物・廃棄物として様々な資源を生産する持続的なシステムとみなすことができる。これまで、我が国の高品質な農産物・食品は、国内外で高く評価されてきたが、今後は、この持続的な生産システムの力を活かし、脱化石資源への取組を加速することで、新たな社会的価値や経済的価値を生み出すことが求められる。そこで、本研究では、主要な副産物・廃棄物資源である藁と畜糞(燃焼灰)の利用価値の向上に繋がる技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • RURAL(Reciprocal Upgrading for Recycling Ash and Lignocellulosics)プロセス(図1)では、農業残渣などの藁(草本茎葉)と、鶏糞などの畜糞を燃焼してエネルギー回収する工程から副生する畜糞燃焼灰とを、水分調整された状態で混合し、それを密封した状態で適切な期間(例えば2週間)静置する。その後、この混合物に洗浄水を加えて、改質された藁を主成分とする画分(改質草本茎葉)及び改質された畜糞燃焼灰を主成分とする画分(改質畜糞燃焼灰)を分離・回収(固-固分離)する。
  • 稲藁及び鶏糞燃焼灰を用いて本プロセスに供し、固-固分離を行う際には、洗浄水を複数回繰り返して使うことができる。藁内の有価物である有機酸(p-クマル酸とフェルラ酸、それぞれ藁乾燥重量の約0.2%遊離)が洗浄水中へ移行し、洗浄水の再利用により濃度が向上する(図2)。
  • 稲藁及び鶏糞燃焼灰を用いて本プロセスに供し、改質された藁を中和してから酵素糖化することで、発酵基質となる単糖・オリゴ糖を回収できる。また、改質された藁を中和せず、アルカリが吸着した基質として、非滅菌で少量ずつ乳酸発酵工程に供することで、1 kgの藁から318 gの乳酸を製造できる(図3)。
  • 稲藁及び鶏糞燃焼灰を用いて本プロセスに供し、改質された鶏糞燃焼灰画分では、酸可溶性リンの73%が回収されたのに対して、高いアルカリ性の原因となるカルシウムは、半量以上が洗浄水及び藁に移行する。改質前の鶏糞燃焼灰を混ぜた水のpHが13.0となるのに対して、改質後の灰画分では11.2まで低下する。

成果の活用面・留意点

  • 本プロセスに灰を供給する畜糞燃焼システムは、再生可能エネルギーの周年供給に貢献する。畜糞燃焼灰は、生石灰と比較してアルカリ力価が低い一方で、化石資源に由来しない再生可能なアルカリとして、持続的な地域産業創出のための戦略的な一次生産物とみなされる。同様に、畜糞燃焼灰は、再生可能なリン資源の給源としても活用が期待されているが、アルカリ度が高くハンドリング上の問題が指摘されている。本プロセスは、これらのニーズに対応し、問題解決に貢献する。
  • 本プロセスは、稲藁、麦藁等の農業残渣のみならず、エリアンサス、ススキ、オギススキ等の資源作物、サトウキビバガスのような食品製造残渣、芝、河川堤防や道路等に生える雑草などにも適用可能と考えられる。湿潤状態の草本茎葉はすぐに腐敗してしまうのに対して、本プロセスによれば腐敗を抑制して湿式貯蔵することができる。
  • 本プロセスによって改質された藁を原料としてバイオプロセスに供することで、乳酸をはじめとする様々な有価物を製造する新産業の創出、そして、地域での他産業とのネットワーク形成を加速するものと期待される。

具体的データ

図1 RURALプロセスフロー概要図,図2 洗浄水の繰り返し使用時における有機酸の濃度,図3 改質草本茎葉(稲藁)の並行複発酵時における乳酸生成量変化

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:徳安健、山岸賢治、池正和、田中章浩
  • 発表論文等:
    • Yamagishi K. et al. (2020) Bioresour. Technol. Rep. 12:100574
    • 徳安ら、特願(2020年4月23日)