分岐アミロデキストリンの会合特性評価法

要約

澱粉の糊が冷えて硬くなる現象を老化というが、これには澱粉の鎖による二重らせん構造形成が関わっている。この現象のモデルとして精製した分岐糖鎖の会合性を利用した評価方法である。会合に影響を及ぼす化合物のスクリーニングにより、澱粉の糊化・老化制御技術の開発が可能となる。

  • キーワード:澱粉、澱粉の老化、分岐糖鎖、会合、澱粉の老化制御
  • 担当:食品研究部門・食品加工流通研究領域・食品素材開発ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

澱粉素材の特性を活かした加工技術を開発するために、澱粉を水中で加熱して糊になった(糊化)ものが冷えて硬くなる現象(老化)に関わる特性を評価・制御する技術が求められている。澱粉のゲル化・老化の過程においては、主として一本らせん構造の形成、二重らせん構造の形成、コイル-コイル相互作用の三種類の相互作用が重要な役割を果たしており、これらが複雑に影響を及ぼし会うことで、様々な物性が発現すると考えられている。複雑なゲル化・老化の過程を解析するために、個別の相互作用を切り分け、澱粉の部分構造物をモデル化合物として用いて評価を行う必要がある。そこで、本研究ではまず二重らせん構造の形成・会合現象を解析するための、分岐アミロデキストリンの会合特性の評価法を開発し、これを利用して会合に影響を及ぼす物質のスクリーニングを行う。

成果の内容・特徴

  • 本評価法では、モチ米澱粉を硫酸処理して得たNageliアミロデキストリンを高度に精製して得た分岐アミロデキストリンを利用する。陰イオン交換クロマトグラフィー分析から、分岐アミロデキストリンの重合度の最頻値は25程度で、イソアミラーゼ分解物の分析から分子内に1~2つの分岐を持つと考えられる(図1)。
  • 本分岐アミロデキストリンは、溶液中で会合させることにより沈澱を生じる。その速度と程度を分光光度計でモニタリングすることで、会合現象を追うことができる。会合させる条件によって得られる沈澱の結晶型が異なる (図2)。66%メタノール溶液中ではA型結晶、水中ではB型結晶が形成される。
  • 本評価系に種々化合物を添加し、一定時間後の濁度(660nmにおける吸光度)を読み取ることで、会合に影響を及ぼす物質のスクリーニングを行うことができる(図3)。添加後の経時変化を測定することで、会合の速度や程度への影響の違いを見ることができる。会合を強く抑制する化合物の一例として、四ホウ酸ナトリウムの例を示す(図4)。

成果の活用面・留意点

  • A型結晶を形成する条件では、数十分以内に反応はプラトーに達する。B型結晶を形成する条件では、数十時間を要する。後者を用いた化合物のスクリーニング目的では、20時間程度経過した時の吸光度の値と無添加時の値の比が指標となる。
  • 澱粉老化時にはB型結晶が形成されることが知られており、B型結晶を形成する条件では澱粉老化モデルとして利用できる。添加する化合物の種類、会合条件の違いによっては、会合速度と程度への影響が異なるので、詳細を解析することにより、会合への影響のメカニズムの解析につながることが期待される。
  • 吸光度で測定するため、不溶性の化合物のスクリーニングを行いたい場合には、顕微鏡観察、溶液の上清の分析などと組み合わせるなどの工夫が必要となる。

具体的データ

図1 精製した分岐アミロデキストリンの陰イオン交換クロマトグラフィーによる鎖長分布パターン,図2 分岐アミロデキストリンの会合に用いる溶液の種類によって会合物の結晶パターンが異なる,図3 分岐アミロデキストリンの吸光度上昇への影響を利用したスクリーニング例,図4 添加物の濃度および会合条件による濁度上昇への影響の違い(四ホウ酸ナトリウムを添加した場合)

その他

  • 予算区分:交付金、SIPII
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:松木順子、和田昌久(京都大)、佐々木朋子、與座宏一、前田英郎、徳安健
  • 発表論文等:
    • Matsuki J. et al (2019) J. Appl. Glycosci. 66:97-102
    • Matsuki J. et al (2020) Starch 72:1900202
    • 松木ら、「会合性をもつ糖質素材とその製造方法」特開2019-208454(2019年12月12日)