パン製品の原料小麦の産地判別に向けた小麦由来タンパク質の安定同位体比分析法
要約
パン製品中のグルテニン画分の安定同位体比は、原料小麦の安定同位体比の特徴を反映している。日本産小麦で作製されたパンのグルテニン画分の炭素・窒素同位体比は、アメリカ産またはカナダ産小麦で作製されたパンとは異なる分布を示すことから、産地判別の指標となり得る。
- キーワード:加工食品、産地判別、小麦粉、タンパク質、安定同位体比
- 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・信頼性評価ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
2017年9月1日より、新たな加工食品の原料原産地表示制度が施行され、国内で製造または加工されたすべての加工食品に対して、原料原産地表示が義務付けられたことから、生鮮品のみならず加工食品についても食品表示の検査技術の開発が求められている。加工食品に含まれる原料の産地判別技術を開発するには、加工工程による影響と副原料や調味料の影響を低減化する必要がある。炭素・窒素などの軽元素の安定同位体比は調理工程による影響を受けにくい特徴から、ワインや乳製品など低次加工食品の産地判別技術へ応用されている。しかし、複数原料や調味料を含む加工食品をそのまま分析すると、得られた結果は、すべての原料の総合値となってしまう。産地を判別したい原料について、原料由来の成分を抽出する前処理手法など、副原料や調味料の影響を受けない分析技術の開発が求められている。
本研究では、複数原料を含む小麦加工品であるパンについて、パン製品中の原料小麦の産地判別技術の開発を目指す。小麦粉以外の原料の影響を受けにくい成分として小麦由来タンパク質に着目し、溶解性の違いから、タンパク質画分を段階的に抽出し、小麦粉以外の原料の影響を受けにくいタンパク質画分の抽出手法を検証する。さらに、抽出したタンパク質画分の安定同位体比を解析することで、パン製品の原料小麦の産地判別の可能性を検証する。
成果の内容・特徴
- 小麦粉・砂糖・塩を基本材料として、その中にイーストまたはスキムミルクまたはバターを加えて作製したパンから溶解性の違いに応じて、水溶性画分(アルブミン/グロブリン画分)、アルコール可溶性画分(グリアジン画分)およびSDS可溶性画分(グルテニン画分)を段階的に抽出する。電気泳動により分離し可視化すると、アルブミン/グロブリン画分の電気泳動パターンは、小麦粉以外の原料が影響して原料小麦のものと異なるが、グルテニン画分の電気泳動パターンは、小麦粉のものと差異が見られず、原料小麦の電気泳動パターンを保持している(図1)。
- パンのグルテニン画分の安定同位体比は、原料小麦の安定同位体比と有意な正の相関があり、原料小麦由来の安定同位体比の特徴を反映している(図2)。
- グルテニン画分の炭素・窒素同位体比は、アメリカ産あるいはカナダ産小麦粉で作製されたパンと、日本産小麦粉で作製されたパンとの間で分布が異なる(図3)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、単一産地の原料小麦のみから製粉した小麦粉を用い、各産地の小麦粉を100%使用して作製したパンについて検討したものである。
- グルテニン画分の安定同位体比分析は、パン製品の原料小麦の産地判別技術に有効であると考えられるが、産地を代表する検体の数を増やして検証を重ねる必要がある。
- アメリカ、カナダおよび日本のサンプル収集地域は小麦粉の主要産地であるため、それ以外の地域の小麦粉の産地判別を行うには別途検証する必要がある。
- 軽元素安定同位体比は年次変化が見られることから、年次変化の検証が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2019-2020年度
- 研究担当者:鈴木彌生子、村田翔太朗(日本製粉)、大楠秀樹(日本製粉)、平尾栄志(日本製粉)、佐藤里絵
- 発表論文等:Suzuki Y. et al. (2021) Food Anal. Methods. 14:186-195