牛ふん堆肥中クロピラリドの高感度分析法

要約

クロピラリド耐性が弱い作物への堆肥施用に対応するための新たな牛ふん堆肥中クロピラリド分析法である。定量下限値は2μg/kg乾物以下であり、従来の堆肥中クロピラリド分析法にマイクロ液液抽出を付与することで、5倍以上感度が向上する。

  • キーワード:クロピラリド、牛ふん堆肥、マイクロ液液抽出、LC‒MS/MS
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・環境化学物質分析ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

海外で牧草や穀類生産に使用されている除草剤クロピラリドが含まれた輸入飼料を牛に給与すると、クロピラリドはふん尿中に排せつされる。そのふん尿を原料とした堆肥の土壌への施用が原因と考えられる農作物の生育障害が発生しており、この問題を解決するための対策が早急に求められている。クロピラリドに対する耐性が弱い農作物、特にミニトマトでは、土壌中のクロピラリド濃度が1 μg/kg乾重において葉の硬化や縮葉といった影響が確認されているため、極低濃度で残留する牛ふん堆肥中クロピラリドを定量できる分析法が必要である。そこで、従来の堆肥中クロピラリド分析法の定量下限値10μg/kg乾物から1ケタ下げた新たな分析法を開発する。

成果の内容・特徴

  • クロピラリドが2μg/kg乾物で残留する牛ふん堆肥を一般的な施用量よりも多めに施用(仮に50t/10aという大量を施用)した場合、土壌中濃度(土壌の仮比重を1、作土層を20 cmと仮定)は0.5μg/kg乾重となり、クロピラリド耐性が極弱のミニトマトで影響が確認される土壌中濃度1μg/kg乾重を下回る。そこで、新たな分析法の牛ふん堆肥中における定量下限値の目標値を2μg/kg乾物とする。
  • 定量下限値を下げるためには最終検液の濃縮操作が必要であるが、有機溶媒を用いたマイクロ液液抽出を行うことで、容易に濃縮が可能となる(図1)。
  • 濃縮することで最終検液に含まれる夾雑物質の影響を受ける可能性があるが、本分析法ではLC‒MS/MSクロマトグラム上に妨害ピークは確認されない(図2)。また、LC‒MS/MS測定時において、共存する夾雑物質によるイオン化阻害等は認められず、絶対検量線法による定量が可能である。
  • 繰り返し分析により得られる新たな分析法の定量下限値は0.7μg/kg乾物であり、目標値の2μg/kg乾物を下回る。濃度が2、10および50μg/kg乾物となるように添加した牛ふん堆肥試料からのクロピラリドの平均回収率は、72~79%、相対標準偏差は5%以下である。
  • 分析法の操作マニュアルは農研機構ウェブサイト内からダウンロードできる(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)や公設試験研究機関、民間受託分析機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:FAMICにより豚ぷん・鶏ふん堆肥や汚泥発酵肥料にも適用拡大可能なことが確認され、本分析法は肥料等試験法(2018)に掲載されるとともに、農林水産省による平成29年度堆肥中に含まれるクロピラリド濃度の調査(2018)に本分析法が採用されている。今後、クロピラリド耐性が弱い作物への堆肥施用に対応するための検査やモニタリング時に、堆肥中クロピラリドの微量分析法として標準的に使用される。

具体的データ

図1 高感度分析法の操作フロー,図2 牛ふん堆肥試料中クロピラリドのLC‒MS/MSクロマトグラム,図3 高感度分析法の操作

その他