予測を含む気象データを利用した水稲、小麦、大豆の栽培管理支援システム
要約
気象情報と利用者が登録した作付け情報から、発育ステージを予測するとともに、適切な追肥量や施用時期、病害の予測情報等の栽培管理支援情報をインターネット経由で届ける農業情報システムである。農業気象災害の軽減、生産の安定、営農の効率化・大規模化に有効である。
- キーワード:気象データ、作物生育予測モデル、農業情報システム、温暖化対策、スマート農業
- 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温暖化適応策ユニット
- 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
近年の温暖化傾向で問題となってきた水稲の高温登熟障害を含む農業気象災害対策、気象の年次変動によって生じる栽培管理適期の変動への対策、我が国の土地利用型農業で急速に進行しつつある、一部経営体の規模拡大に必要な生産管理の効率化への支援のために、気象情報を利用して様々な農業気象災害対策や適期管理に貢献する栽培管理支援情報を生産者に届ける情報システムの開発が求められている。そこで本研究では、過去や予報の気象情報を活用して適切な追肥量や施用時期、病害の予測情報等、作物の栽培管理を支援する情報を作成する手法を開発するとともに、それらをウェブサイトにまとめ、利用者が作付けに応じた栽培管理支援情報を得られるシステムを開発する。
成果の内容・特徴
- 本システムは、インターネット上に提供するウェブサイトhttps://agmis.naro.go.jpから様々な栽培管理支援情報と農業気象災害に関する早期警戒情報を利用者に届ける。作物の品種や播種日、圃場の位置等を利用者が登録すると、システムはメッシュ農業気象データシステムから配信される最新の気象データと作物生育・病害予測モデル等を用いて、発育予測、施肥適期・量、病害防除適期等の栽培管理支援情報を提示する。一部の支援情報の作成には、利用者が入力する葉色等の作物観察データが必要である。また、気象データおよび気象モデルを用いて作成した早期警戒情報を提示する。これらの情報は、文章や数表、時系列グラフや帯グラフ、分布図などでウェブサイト上に表示される。また、幾つかの情報は電子メールで利用者に通知することも可能である(図1)。
- 水稲、小麦、大豆を対象作物とし、延べ15種類の栽培管理支援情報が提供可能である(表1)。また、高温・低温およびフェーンリスクについての早期警戒情報を提供する。栽培管理支援情報には、気象予測データを活用して栽培中の作物の管理を支援するものと、過去数十年の気象データを活用して作付け計画の策定を支援するものがある。
- 発育予測情報と水稲収穫適期情報は、気象条件によって変化する発育ステージの進行に合わせた適期の栽培管理に貢献する。水稲高温登熟障害対策支援情報は、高温登熟障害を軽減する最適な窒素追肥量と施用適期を気象条件と葉色実測値に基づいてアドバイスする。このほか、北海道向けの水稲冷害対策支援、水稲病害予測、適期収穫に資する小麦の子実水分予測、大豆潅水支援等の栽培管理支援情報も利用可能である。
- 本システムに実装された栽培管理支援情報を作成するアルゴリズムは、本システムとは独立したWeb-APIサービスの構築に利用できる(図2)。
普及のための参考情報
- 普及対象:最終的な利用者:水稲・小麦・大豆生産者、普及機関、JA営農指導員、公設研究機関等。中間利用者:栽培管理支援情報を加工・販売するICTベンダー・農業機械メーカー。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の水稲、小麦、大豆生産圃場。システムの直接利用として1000件。現在のシステム利用登録者数は243件(農研機構外の利用者数:200件)。このほかWeb-APIを通じた栽培管理支援情報の間接利用に向けたサービスを農業データ連携基盤、ICTベンダー等を通じて行う。
- 栽培管理支援情報が他の営農支援ソリューションにおいても利用できるよう、本システムとは別に、栽培管理支援情報をWeb-APIの形式で提供するサービスも実施する(図2)。現時点では、水稲、小麦、大豆の発育予測、水稲収穫適期、高温登熟障害対策支援のサービスを試行中であり、それらは農業データ連携基盤においても利用可能である。
- 適期管理に貢献するとともに、他の栽培管理支援情報構築の基礎となる発育予測情報については、水稲143品種、小麦13品種、大豆7品種ついて対応している。
- マニュアルに本システムの利用者登録の方法および各情報コンテンツの使用法を記載している。
- システムURL:https://agmis.naro.go.jp
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
- 研究期間:2014~2018年度
- 研究担当者:中川博視、大野宏之、佐々木華織、丸山篤志、吉田ひろえ、中野聡史、伏見栄利奈、菅野洋光、廣田知良、濱嵜孝弘、井上聡、根本学、小南靖弘、下田星児、熊谷悦史、高橋智紀、大久保さゆり、中園江、松山宏美、芦澤武人、黒瀬義孝、長田健二、千葉雅大、植山秀紀、森田敏、中野洋、柴田昇平、羽方誠、松尾直樹、岩田洋佳(東京大学)、山崎将紀(神戸大学)、神田英司(鹿児島大学)、古川勝弘(道総研)、三浦周(道総研)、藤倉潤治(道総研)、岡元英樹(道総研)、大塚省吾(道総研)、熊谷聡(道総研)、杉川陽一(道総研)、谷藤健(道総研)、須田達也(道総研)、細淵幸雄(道総研)、鈴木慶次郎(道総研)、櫻井道彦(道総研)、櫻田史彦(宮城県古川農試)、宮野法近(宮県古川農試)、小泉慶雄(宮城県古川農試)、道合知英(宮城県古川農試)、吉田修一(宮城県古川農試)、鈴木智貴(宮城県古川農試)、土田徹(新潟県農業総合研究所)、東聡志(新潟県農業総合研究所)、中村正明(新潟県農業総合研究所)、古川勇一郎(新潟県農業総合研究所)、本間利光(新潟県農業総合研究所)、仲山和久(新潟県農業総合研究所)、望月篤(千葉県農林総合研究センター)、太田和也(千葉県農林総合研究センター)、鶴岡康夫(千葉県農林総合研究センター)、加藤雅宣(兵庫県立農林水産技術総合センター)、杉本琢真(兵庫県立農林水産技術総合センター)、小河拓也(兵庫県立農林水産技術総合センター)、藤本啓之(兵庫県立農林水産技術総合センター)、礒野幸浩(兵庫県立農林水産技術総合センター)、森本幸作(兵庫県立農林水産技術総合センター)、池上勝、(兵庫県立農林水産技術総合センター)、荒木雅登(福岡県農林業総合試験場)、岩渕哲也(福岡県農林業総合試験場)、石塚明子(福岡県農林業総合試験場)、大野礼成(福岡県農林業総合試験場)、奥野竜平(福岡県農林業総合試験場)、内川修(福岡県農林業総合試験場)、岡田周平(株式会社ビジョンテック)、前田充宏(株式会社ライフビジネスウェザー)
- 発表論文等: