ヘプタクロル類リスク低減のためのカボチャ作付適否判断を支援するアプリケーション

要約

ヘプタクロル類の残留基準値超過回避の観点からのカボチャ作付の適否判断を支援できるアプリケーションである。ほ場内1点(1haあたり25点の混合試料)と数点(4点を推奨)の土壌中ヘプタクロル類濃度から、ほ場内の土壌中濃度の最大値の確率分布と危険率が高い地点を推定できる。

  • キーワード:土壌診断、ヘプタクロル類、マルコフ連鎖モンテカルロ法、アプリケーション
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・統計モデル解析ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

殺虫剤ヘプタクロルとその代謝物であるエポキシド体(両者をあわせて、以下ヘプタクロル類)は、農薬登録の失効(1975年)から40年以上経過した現在でも、農耕地土壌に残留している場合がある。近年、カボチャ果実から残留基準値を上回る濃度でヘプタクロル類が検出され、土壌診断に基づいたカボチャ作付の適否を判断する手法の開発が求められている。ほ場から得た少数の土壌サンプルの分析値から、土壌中ヘプタクロル類濃度の最大値とその場所を推定できれば、効率的に基準値超過のリスクを回避できる。そこで、約1haのほ場内の数点の土壌中ヘプタクロル類濃度から、ほ場内の最大値の確率分布と危険率が高い地点を推定するプロトコルを開発し、使用が簡単なアプリケーションとして配布する。

成果の内容・特徴

  • 土壌中ヘプタクロル類濃度のほ場内の平均値から閾値を超過する危険率を推定するプロトコル1、ほ場内の複数点の土壌中ヘプタクロル類濃度からより精緻な危険率の算出と危険率が高い地点を推定するプロトコル2から構成される(図1)。なお、アプリケーションに入力する土壌中濃度は、ウリ科作物の可給性を評価可能な50%メタノール・水(v/v)抽出で得た濃度である。
  • プロトコル1では、ほ場内から満遍なく(1haあたり25点を推奨)サンプリングし混合した一つの土壌試料中のヘプタクロル類濃度(これをほ場内の平均値とする)を入力する。パラメトリックブートストラップを用いて、ほ場内のヘプタクロル類濃度の最大値の危険率を推定するとともに、その確率分布を計算する(図2)。
  • プロトコル2では、ほ場内から等間隔に数点(4点を推奨)の土壌を追加サンプリングし、平均値と個々の試料中のヘプタクロル類濃度を入力する。マルコフ連鎖モンテカルロ法を利用してほ場内のヘプタクロル類濃度の最大値の確率分布を計算することで、プロトコル1よりも精度が向上し、危険率が高い地点の推定も可能となる(図3、図4)。
  • 現行の「土壌残留ヘプタクロルのかぼちゃ作付前土壌診断ガイドライン」でのカボチャ作付適否判断には、最大で26点の土壌の分析値が必要である。しかし、本アプリケーションでは5点の分析値でカボチャ作付の適否判断ができる。

成果の活用面・留意点

  • 本プログラムで入力する閾値は、土壌中濃度とカボチャ中濃度の関係式から得たカボチャ中ヘプタクロル類の残留基準値を超過しない土壌中ヘプタクロル濃度の最大値である。
  • 付随する手順書に従って土壌調査の実施者(自治体関係者や農業団体関係者等)が簡単に利用できる。また、アプリケーションはWindows7以上での動作を保証し、CD-ROMで配布する。
  • 本手法は、14ほ場における土壌の詳細なヘプタクロル類測定データに基づいたものであり、他物質に応用する場合は、概ね10か所程度の複数ほ場の濃度分布データが必要になる。
  • 1haより小さいほ場の場合、プロトコル1で入力する平均値算出のための土壌サンプル数は面積に応じて削減可能である。

具体的データ

図1 プロトコルの概略,図2 プロトコル1の画面,図3 プロトコル2の画面,図4 本手法のアウトプットの例

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:櫻井玄、清家伸康
  • 発表論文等:
    • Seike N. et al. (2019) J. Environ. Chem. 29(1):1-9
    • 櫻井、清家(2018)統計数理研究所共同研究リポート、395:39-48