DNAバーコーディングによるセイヨウミツバチが利用する花粉種組成の定量的分析手法

要約

セイヨウミツバチが巣箱に持ち帰る花粉団子の一部を個別に秤量した後、DNAバーコーディングを用いて種同定し、種(属)ごとの重量を合算する方法である。本手法により、セイヨウミツバチが花粉資源としてどのような花を利用していたかを知ることができる。

  • キーワード:セイヨウミツバチ、花粉団子、DNAバーコーディング、サンガー法
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生態系サービス評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

施設園芸では多くの場合、交配をセイヨウミツバチに行わせており、その巣箱の安定供給は園芸作物の品質維持と安定生産のために必要不可欠である。セイヨウミツバチのコロニーの順調な成長には、春から秋まで有用な花粉資源が絶え間なく供給されることが必須である。従来、花資源の把握のために用いられてきたセイヨウミツバチの花粉団子の種同定は、働き蜂が巣箱に持ち帰る花粉団子の一定量をまとめて粉砕し、顕微鏡観察もしくは次世代シーケンサーで分析する方法が一般的であった。前者は専門知識を要する点と種の特定が難しい点、後者は種組成の定量性に欠く点と検出されない種があり得る点が欠点であり、技術の開発が求められている。
本研究では、セイヨウミツバチの一個の花粉団子は通常単一の植物種の花粉から構成されている特徴を利用し、サンプリングされた花粉団子の一定量を個別に秤量した後、DNAバーコーディングを用いて種同定する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • セイヨウミツバチの巣箱の入り口に設置したトラップで回収した花粉団子を個別に秤量、DNAを抽出・精製、DNAバーコード配列(葉緑体DNAのtrnL-trnF領域と核DNAのITS2領域を併用、一部サンプルは葉緑体DNAのpsbA-trnH領域やmatK領域を使用)をPCRにより増幅、塩基配列をサンガー法で解読、BLASTを用いたホモロジー検索によりデータベースから収集した相同性の高い配列を対象に分子系統解析を行うことで属や種を決定できる(図1、表1)。
  • 8月初旬に北海道士別市において採取した例では、ソバが約1/3を占める最も主要な花粉種であることがわかる(図2)。本手法は他の従来法と比較して、種の特定が比較的容易な点と種組成が定量的である点で優れていることから、花粉団子の主要な構成種を確実に把握したい場合に最も有力な方法である。
  • 1008個の花粉団子について調べたところ、1005個で種(あるいは属まで)の同定が可能であったことから(成功率99.7%)、高い精度で分析できる。
  • 本手法により、セイヨウミツバチが利用する花粉源の定量的な種組成を比較的容易に知ることが可能になる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法を用いた花粉資源の把握は、施設園芸等におけるセイヨウミツバチの安定供給および養蜂業の経営安定の支援に役立つ技術である。
  • マイナーな構成種を検出するには分析に供する花粉団子の個数を増やす必要があるが、コストと労力の面で問題が生じるため、上述の次世代シーケンサーによる分析など、別の方法の利用も検討することが望ましい。

具体的データ

図1 花粉団子分析のフローチャート,図2 (a)8月に北海道士別市で採取した花粉団子サンプルと(b)その種組成,表1 DNAバーコーディングによる花粉団子の種同定(全31種(属)中、頻出種を抜粋)

その他

  • 予算区分:その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:加茂綱嗣、楠本良延、德岡良則、大久保悟、早川宗志、芳山三喜雄、木村澄、小沼明弘
  • 発表論文等:Kamo T. et al. (2018) Appl. Entomol. Zool. 53:353-361