アズマネザサの繁茂した耕作放棄畑を森林に再生させるための植生管理

要約

アズマネザサ(以下、ササ)が繁茂した耕作放棄畑ではササとの競争、動物による食害、落葉落枝の堆積が重なり合うことで樹木の定着が妨げられる。ササの繁茂した放棄畑からの早期の森林再生にはササの刈取り、樹木の播種や植裁、食害対策などの組合せが効果的である。

  • キーワード:耕作放棄、森林再生、食害、アズマネザサ
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生態系サービス評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業生産の縮小や農業従事者の高齢化により、全国的に耕作放棄畑の増加が続いている。耕作放棄畑は極力減らし、作物生産圃場に再生させていくのが望ましいものの、農業・農村の構造的な変化を考えると、全ての圃場での営農再開は困難であり、農村や地域の景観管理、生物多様性の保全の観点から自然植生に再生させていくことにも関心が寄せられている。しかし、耕作を放棄し、放置するだけで地域本来の植生に戻るわけではなく、関東平野の場合、耕作放棄畑の2割以上ではアズマネザサ(以下、ササ)が繁茂して生物多様性が減少するとともに、隣接圃場にササが侵入するため、雑草管理の点でも問題になっている。
そこで、本研究では関東地域のアズマネザサの繁茂した耕作放棄畑において、地域の樹木の定着がどのような理由で妨げられるのかを野外試験により明らかにするとともに、自然植生への効果的な再生手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 本試験ではアズマネザサ、落葉落枝、野生動物の侵入の有無を操作し、在来樹木6種(明るい環境を好む樹木としてアカマツ、ムクノキ、エノキ、コナラ、暗めの環境を好む樹木としてシラカシ、スダジイ)の種子を播いて、翌年まで幼木の芽生えとその生残状況を調査している。これらの樹木が操作した要因へどのような反応を示すかに基づき、ササの繁茂後に森林再生が自然に進むのか、人手によるサポートが必要かを判断している。
  • 耕作放棄畑で繁茂したササを放置すると、在来樹種の定着がササとの競争、野ネズミによる食害、落葉落枝の堆積などにより妨げられ(図1a、1b、2)、ササの繁茂が長く続く。例えば、野ネズミはアカマツ、ムクノキ、エノキ、コナラ、シラカシ、スダジイの種子や幼木を著しく加害し、アカマツ、ムクノキ、エノキ、コナラの幼木のほとんどはササとの競合で枯死する。
  • ササの刈取り後、エノキ、コナラ、シラカシ、スダジイを播種すると、約2割から6割の幼木が定着できる(図2)。ただし、ムクノキやアカマツはコジュケイによる子葉や種子の食害により1割未満の定着に止まる。また全種の幼木が主に冬場にニホンノウサギの食害を受けることで成長が停滞する。そこで、ササの刈取りに加え、地域の樹木の播種、動物避け柵の設置、落葉落枝の除去などを組み合わせることで幼木の定着が可能となる(図1c、1d、2)。
  • 図3のフローのように、再生を目指す植生や動物による食害の有無などの地域の実情に応じて対策を施すことで、効率的に森林を再生することが可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本試験は茨城県南の一つの圃場で複数年繰り返し行った。幼木を食害した3種の動物は広域にごく普通に生息する種である。しかし、ササを食べるシカなど他の動物が生息する地域では、ササの優占した放棄畑でも樹木の定着のしやすさが異なる可能性がある。
  • 周辺植生から樹木の苗木が入手できれば、それを植栽することが生態学的観点から推奨される。

具体的データ

図1 試験区における在来樹種の再生状況,図2 試験処理ごとの種まき後約一年後に生き残った幼木の割合生存率は箱ひげ図で示す,図3 アズマネザサの繁茂した耕作放棄畑における森林への効率的な再生手順

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2018年度
  • 研究担当者:德岡良則、大東健太郎、渡邊浩二、山口弘、荒貴裕、中越信和(広島大学)
  • 発表論文等:
    • Tokuoka Y. et al. (2015) J. For. Res. 26:581-588
    • Tokuoka Y. et al. (2016) J. For. Res. 27:1287-1294
    • Tokuoka Y. and Nakagoshi N. (2018) Diverse Patterns of Vegetation Change after Upland Field Abandonment in Japan「Landscape Ecology for Sustainable Society」pp.123-137, Springer DOI:10.1007/978-3-319-74328-8_8
    • Tokuoka Y. et al. (2019) J Plant Ecol. 12(2):292-305 https://doi.org/10.1093/jpe/rty024