水田の休耕・耕作放棄が生物多様性に与える影響は生物群や環境要因によって異なる

要約

水田の休耕・耕作放棄は、乾田、谷津田・棚田や降水量の少ない地域では生物多様性を減少させやすく、逆に湿田、低地や降水量の多い地域では生物多様性を増加させやすい。生物群によっても差があり、両生類・魚類が最も減少しやすく、鳥類・哺乳類が増加しやすい。

  • キーワード:生物多様性、水田、休耕、耕作放棄、メタアナリシス
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生物多様性変動ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農地は、食糧生産の場としての価値だけでなく、生物多様性保全の場としての価値を有する。近年増加を続ける耕作放棄地の多様な管理のあり方を考える上では、耕作放棄が生物多様性に与える影響を明らかにする必要がある。日本では、これまでに気象条件や周辺土地利用の異なる様々な圃場で、個別事例的に各生物群(植物、クモ・昆虫類、両生類・魚類、鳥類・哺乳類)に対する影響が調べられてきた。そこで本研究では、これらのデータを統一的に解析するメタアナリシスによって、生物群ごとの影響の違いや気象条件、周辺土地利用等の環境要因に応じた状況依存性の有無を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • メタアナリシスの国際的ガイドラインに従い、国内全域でこれまでに調査された水田の生物相の報告(論文、調査報告、著書等)から、メタアナリシスの要件を満たすデータセット(35文献から64データ)を抽出する(図1)。作付け水田、休耕田(4年未満作付けなし)、放棄田(4年以上作付けなし)のうちいずれか二種類で種数・個体数の比を取り、対数変換して休耕・耕作放棄の「効果の大きさ」を計算する。
  • 機械学習を用いたメタアナリシスによれば、休耕・放棄が生物多様性(種数・個体数)に与える影響(効果の大きさ)は複数の環境要因に左右される(図2)。最も重要な要因は圃場の乾湿であり、管理の状態(休耕か放棄か)、年降水量、生物群、多様性の指標(種数か個体数か)、周辺の土地利用、年平均気温、標高と続く。
  • 重要度の高い要因に注目すると、種数・個体数が増える場合もあれば減る場合もあることが分かる(図3)。まず管理状態の影響としては、休耕は種数・個体数を増加させるが、耕作放棄は減少させる。次に圃場の乾湿としては、湿田の休耕・放棄は種数・個体数を増加させるが、乾田の休耕・放棄は低下させる。気象要因としては、年降水量が1500mm以下の地域では休耕・放棄によって種数・個体数が減少しやすい。生物群によっても影響は異なり、両生類・魚類は最も減少しやすく、植物および無脊椎動物も減少するが、鳥類・哺乳類は増加傾向にある。周辺の土地利用も重要であり、低地よりも谷津田・棚田の休耕・放棄の方が種数・個体数が減少しやすい。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の結果を活用することで、全国各地の様々な環境条件(圃場管理、地形や気象等)に応じて、休耕・耕作放棄にともなう生物多様性の変化を定量的に予測・議論できるようになる。この知見は、今後の耕作放棄地の管理のあり方について、持続可能な開発目標(SDGs)の目標15「陸上資源」と関連づけて行政部局や各種団体が施策立案を行うための基礎資料となる。
  • 同じ生物群でも耕作放棄によって減る種もいれば増える種もいることがわかっている(農業環境技術研究所平成27年度主要成果)。したがって、種数や個体数だけでなく種組成や絶滅危惧種に着目した評価も必要である。

具体的データ

図1 データセットの抽出手順,図2 各環境要因の重要性,図3 休耕・耕作放棄が生物多様性に与える影響と各環境要因の関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:片山直樹、越田智恵子
  • 発表論文等:Koshida C. and Katayama N. (2018) Conserv. Biol. 32(6):1392-1402